『はなのすきなうし』は、マンロー・リーフ作、ロバート・ローソン絵、光吉夏弥訳による絵本で、1954年に岩波書店から日本で発行されました。原作は1936年にアメリカで出版された『The Story of Ferdinand』です。物語は、スペインの牧場に暮らす牛フェルジナンドが、他の牛たちが闘牛を夢見る中、ひとり花の香りを楽しむ日々を描いています。ある日、蜂に刺された拍子に大暴れし、その姿を見た男たちにより闘牛場へ連れて行かれますが、彼は闘うことなく花の香りを楽しみ続けます。この絵本は、個性の尊重や自己の信念を貫くことの大切さを伝える作品として、多くの読者に愛されています。
略歴
マンロー・リーフ
マンロー・リーフ(Munro Leaf,1905年 – 1976年)は、アメリカ合衆国の児童文学作家で教育者として知られています。代表作『The Story of Ferdinand』は1936年に出版され、平和を愛する牛フェルジナンドを通して個性や平和の重要性を説いた作品として世界的に評価されました。リーフは、児童文学だけでなく教育的な本も数多く執筆しており、子どもたちが簡単に読める文章で道徳的なテーマを伝えるスタイルが特徴です。生涯で30冊以上の本を出版し、その中には子どもの教育や成長に役立つ実用的な作品も含まれています。リーフの作品は、シンプルながら深いメッセージを持ち、現在も多くの人々に愛読されています。
ロバート・ローソン(絵)
ロバート・ローソン(Robert Lawson,1892年 – 1957年)は、アメリカ合衆国のイラストレーター兼作家で、児童文学界で高い評価を得ています。『The Story of Ferdinand』のイラストを担当し、繊細でユーモラスなタッチで物語を彩りました。ローソンは1936年に『Ferdinand』の成功で一躍注目を浴び、その後も数々の絵本や児童書の挿絵を手がけました。彼は、ニューベリー賞(1945年)とコールデコット賞(1941年)の両方を受賞した人物として知られ、その作品はユーモアと情緒の豊かさが特徴です。特に動物を描く際の表現力には定評があり、現在もその才能が語り継がれています。
光吉 夏弥(訳)
光吉夏弥(みつよし なつや,1904年 – 1989年)は、日本の翻訳家であり、児童文学や外国文学の翻訳で広く知られています。大阪府生まれ。1929年慶應義塾大学経済学部卒業。彼は特に英語圏の児童文学を日本語に翻訳することに力を注ぎ、『はなのすきなうし』や『ちびくろ・さんぼ』など、今も多くの読者に親しまれる名作を数多く紹介しました。光吉の翻訳は、原作の魅力を損なうことなく、日本語の読者に伝わりやすい表現を工夫したことで評価されています。彼の翻訳は、児童文学を通じて異文化理解を深める架け橋となり、多くの子どもたちや大人に文学の楽しさを伝え続けています。
おすすめ対象年齢
『はなのすきなうし』は、出版社のおすすめ年齢として4歳から5歳以上とされています。シンプルなストーリーと優しいイラストで、小さなお子様にも理解しやすく、読み聞かせにも適しています。また、自己の個性を大切にするテーマは、小学生以上の子どもたちにも深い共感を呼ぶでしょう。幅広い年齢層で楽しめる作品として、親子での読書にも最適です。
レビュー
『はなのすきなうし』は、他者と異なる自分の個性を大切にし、周囲の期待や社会の常識に流されず、自分らしく生きることの大切さを教えてくれる絵本です。フェルジナンドの穏やかな性格と花を愛する姿勢は、現代社会においても自己の信念を貫くことの重要性を再認識させてくれます。また、彼の個性を理解し、見守る母親の存在も印象的で、子どもの成長を温かく支える親の姿勢を考えさせられます。ロバート・ローソンの繊細なイラストは、物語の舞台であるスペインの風景や登場人物の感情を豊かに表現しており、読者の想像力をかき立てます。シンプルながら深いメッセージを持つこの作品は、子どもだけでなく大人にとっても心に響く一冊です。