
『ロバのおうじ』は、グリム兄弟の原作をM.ジーン・クレイグが再話し、バーバラ・クーニーが絵を手掛け、もき かずこが翻訳した絵本です。1979年にアメリカで発行され、日本ではほるぷ出版から同年に刊行されました。物語は、ロバの姿で生まれた王子が、音楽の才能を持ち、旅の中で真実の愛を見つけることで人間の姿を取り戻すという内容です。クーニーの繊細で美しいイラストが、物語の世界観を豊かに表現しています。
略歴
グリム兄弟
グリム兄弟[ヤーコプ・グリム (Jakob Grimm) とヴィルヘルム・グリム (Wilhelm Grimm)]は、19世紀ドイツを代表する言語学者であり民俗学者です。彼らは1785年(ヤーコプ)と1786年(ヴィルヘルム)にドイツのハーナウに生まれ、マールブルク大学で法学を学ぶ中で民族文化や言語への関心を深めました。特に民間伝承や童話に強い興味を抱き、各地の口承文学を収集し、それを基にした『グリム童話集』を1812年に初めて出版しました。この作品は、単なる子供向けの物語ではなく、当時の民衆文化や価値観を反映した重要な文化遺産として高く評価されています。兄ヤーコプは特にドイツ語の文法研究や辞書編纂にも尽力し、弟ヴィルヘルムは物語の文体や編集に秀でていました。彼らの活動は、ドイツの統一と民族意識の高揚にも寄与しました。
彼らの作品には、『赤ずきん』や『おおかみと七ひきのこやぎ』、『ブレーメンのおんがくたい』、『こびとのくつや』、『ヘンゼルとグレーテル』、『白雪姫』、『シンデレラ』など、今日でも世界中で愛されている物語があります。
バーバラ・クーニー(絵)
バーバラ・クーニー(Barbara Cooney、1917年 – 2000年)は、アメリカ合衆国の著名な児童文学作家・イラストレーターです。ニューヨーク州ブルックリンで生まれ、幼少期から美術と文学に親しみました。スミス大学で美術を専攻し、第二次世界大戦中には女性航空兵としての訓練を受けたこともあります。クーニーは、版画の技法や水彩画など多様な技術を用いた美しいイラストで知られ、40冊以上の絵本を手がけました。1959年に『Chanticleer and the Fox』で初めてコールデコット賞を受賞し、1980年には『Ox-Cart Man』で再び同賞を受賞しました。1983年には『Miss Rumphius』(邦題『ルピナスさん』)が全米図書賞を受賞するなど、数々の賞に輝いています。その作風は深い感情や哲学的なテーマを含み、子どもだけでなく大人にも愛されています。
おすすめ対象年齢
『ロバのおうじ』の対象年齢は、4歳からとされています。しかし、物語の深いテーマや美しいイラストレーションは、年齢を問わず多くの読者に感動を与えるでしょう。
レビュー
この絵本は、外見や姿形ではなく、内面の美しさや真実の愛の力を描いています。ロバの姿で生まれた王子が、音楽を通じて人々と心を通わせ、最終的に愛によって本来の姿を取り戻す物語は、読む者の心に深く響きます。クーニーの繊細で美しいイラストレーションが、物語の世界観を豊かに表現しており、ページをめくるたびに新たな発見があります。子どもだけでなく、大人にもぜひ手に取っていただきたい一冊です。