
『とんことり』は、筒井頼子さん作、林明子さん絵による絵本で、1989年に福音館書店から発行されました。物語は、山の見える町に引っ越してきたばかりの少女・かなえが主人公です。新しい環境で友だちもいない中、かなえは家族と荷物の整理をしています。その時、「とん ことり」と玄関から小さな音が聞こえ、見に行くとすみれの花束が置かれていました。翌日にはたんぽぽ、さらにその次の日には宛名のない手紙が届きます。これらの不思議な「郵便物」を通じて、かなえは新しい友だちとの出会いを果たしていきます。
略歴
筒井頼子
筒井頼子(つついよりこ)さんは1945年東京都板橋区生まれの絵本作家です。秋田県での幼少期や埼玉県での学生生活を経て、コピーライターとして働いた後、専業主婦となり子育てをしながら執筆を開始しました。1976年に福音館書店「こどものとも」で発表した『はじめてのおつかい』は、林明子さんが絵を担当し、子どもの成長を描く作品として長く愛されています。その後も『あさえとちいさいいもうと』や『いもうとのにゅういん』などで成功を収め、特に『いもうとのにゅういん』の英語版がエズラ・ジャック・キーツ賞を受賞しました。日常を温かく描く作風で、国内外で多くの読者に親しまれています。
林 明子(絵)
林明子(はやし あきこ)さんは、日本の絵本作家・イラストレーターとして多くの人々に親しまれています。1945年、東京都に生まれ、大学でグラフィックデザインを学びました。卒業後はデザイン事務所で働き、そこでの経験を生かしつつ、1970年代から絵本のイラストを手がけるようになります。林さんの作品は、子どもたちの日常の生活や心の成長を細やかに描写することに定評があり、特に「こんとあき」「おつきさまこんばんは」「クリスマスの三つのおくりものセット」などは、親子で楽しめる定番の作品として愛されています。また、彼女の絵本は、物語の温かさと優しい色合いのイラストが調和しており、読む人に安心感と親しみを与える魅力があります。そのキャリアを通じて、林さんは数多くの賞を受賞し、日本の絵本界で非常に重要な存在となっています。彼女の作品は国内外で高く評価され、翻訳もされているため、世界中の子どもたちにも親しまれています。
おすすめ対象年齢
対象年齢は、「読んであげるなら4歳から、自分で読むなら小学校低学年から」とされています。4歳頃の子どもにとっては、新しい環境に馴染むことへの不安や期待を感じ取りやすい内容です。また、小学校低学年の子どもが自分で読むことで、登場人物の心情をより深く理解できるでしょう。新しい場所や友だちとの出会いをテーマにしているため、引っ越しや入園・入学を経験する子どもにもおすすめの作品です。
レビュー
『とんことり』は、新しい環境での不安や期待、そして友情の始まりを繊細に描いた作品です。かなえの心情や、少しずつ築かれていく友だちとの関係が丁寧に表現されています。林明子さんの柔らかく温かみのあるイラストは、物語の雰囲気をより引き立て、読者の共感を呼び起こします。新しい場所や人間関係に不安を感じる子どもたちにとって、心の支えとなる一冊と言えるでしょう。