『アナグマさんはごきげんななめ』(原題 Badger’s Bad Mood)は、ハーウィン・オラム作・スーザン・バーレイ絵で1997年にイギリスで刊行。いつも頼りになるアナグマが突然ふさぎ込み、心配したモグラが“みんなに愛されている証”を示す表彰式を計画――というお話です。友だちの温かいサポートでアナグマの気持ちが晴れていく過程を、バーレイの柔らかな水彩がユーモラスに包み込みます。日本語版は小川仁央訳で1998年(評論社)に登場。落ち込みや自己肯定感の低下を扱いながらも、読後はホッと笑顔になれる“こころの応急処置箱”のような一冊です。
略歴
ハーウィン・オラム
ハーウィン・オラム(Hiawyn Oram)は南アフリカ生まれ。クワズール・ナタール大学で英語と演劇を学び、広告コピーライターを経て作家へ転身しました。デビュー作『Angry Arthur』(1980)が英国マザーグース賞を受賞・日本でも「絵本にっぽん賞」特別賞となり、一躍人気作家に。以後『ぼくはおこった』『アナグマのもちよりパーティ』など100冊超を執筆し、30以上の言語に翻訳されています。テレビアニメ脚本や子ども向けミュージカルも手がけ、現在はロンドン在住。ユーモアの中に子どもたちへのエンパワメントを忍ばせる作風が魅力です。
スーザン・バーレイ(絵)
スーザン・バーレイ(Susan Varley)さんは、1961年にイギリスのブラックプールで生まれました。マンチェスター・ポリテクニックでグラフィックデザインとイラストレーションを学び、児童書の作家・イラストレーターとして活躍しています。彼女のデビュー作であり、世界的ベストセラーとなった『わすれられないおくりもの』(Badger’s Parting Gifts)は、高齢化と死別という難しいテーマを、森の動物たちを通して優しく描いた傑作です。この作品で1985年にマザー・グース賞を受賞し、イギリス児童書イラスト界の「最もエキサイティングな新人」として評価されました。『てろんてろんちゃん』の絵も、バーレイさんの温かく緻密な鉛筆と水彩のタッチが魅力で、登場する動物たちの表情がとても豊かです。現在はロンドン近郊に在住、執筆とイラスト制作を続けながら学校や図書館で読み聞かせワークショップも行っています。
小川仁央(訳)
小川 仁央(おがわひとみ)さんは、英米の絵本や物語を中心に活躍する翻訳家です。具体的な生年月日や出身地などの詳細な経歴は公開されていませんが、これまでに多くの絵本を日本語に翻訳し、読者に届けてきました。主な訳書には、スーザン・バーレイ作『わすれられないおくりもの』、サム・マクブラットニィ作『どんなにきみがすきだかあててごらん』、デイビッド・シャノン作『だめよ、デイビッド!』、ベンジー・デイヴィス作『おじいちゃんのゆめのしま』などがあります。これらの作品を通じて、子どもたちや大人に感動や喜びを提供し、絵本の魅力を広める役割を果たしています。
おすすめ対象年齢
オリジナルの推奨リーディングエイジは4〜8歳。文字数は多くないものの感情表現が豊かなので、4〜5歳の読み聞かせから小学校低学年の自読まで幅広く対応します。主人公の“どんより気分”は年長児や小学生が抱えがちな自己否定に通じるため、保護者や先生が「気持ちが沈む日もあるよね」と受け止めながら読むと効果的。思春期の子や大人のセルフケア本としても十分機能する懐の深さがあります。
レビュー
読み始めは「どうしてアナグマが機嫌を損ねたの?」とハラハラしましたが、仲間たちがアイデアを出し合い“アナグマがどれだけ愛され役立っているか”を具体的に示す場面で一気に光が差します。特効薬ではなく「気持ちが晴れるまでそばにいる」スタンスがリアルで、落ち込む友人を励ますヒントにも。バーレイの水彩は暗い色調でも柔らかく、ページをめくるたびに心がほぐれるのを実感。最後の表彰式でアナグマの笑顔が戻る瞬間は、読み手まで一緒にガッツポーズしたくなる爽快さです。


