ぞうのババール こどものころのおはなし/ジャン・ド・ブリュノフ

『ぞうのババール こどものころのおはなし』は、フランスの人気絵本作家ジャン・ド・ブリュノフによる作品で、原題は Histoire de Babar。1974年にフランスで初版が発行され、日本では評論社より1987年に大型版として刊行されました。物語は、森の中で母親を失った幼いババールが、都会で新たな生活を始める姿を描きます。幽玄な森から都会への旅、大胆なスタイルチェンジなど、愛と成長、失うことから立ち直る力が優しく伝わります。やわらかなタッチのイラストと、大胆かつ繊細な色彩が調和した魅力的なビジュアルは、読者に深い印象を与えます。

略歴

ジャン・ド・ブリュノフ

ジャン・ド・ブリュノフ(Jean de Brunhoff、1899年 – 1937年)は、フランス・パリ生まれの画家であり、「ぞうのババール」シリーズの生みの親です。もともとは画家として活動していましたが、妻セシルが子どもたちに話していた象の物語をもとに、ジャンが絵をつけて絵本化したのがきっかけで、1931年に『ぞうのババール』第1作を出版。洗練されたイラストと物語は瞬く間に人気となり、フランス国内外で愛されるシリーズとなりました。わずか37歳で永眠されたものの、息子ローランがその後を継ぎ、シリーズは今も続いています。優れたビジュアルと物語性で、絵本界に大きな足跡を残した作家です。

やがわすみこ(訳)

やがわすみこ(1930年 – 2002年)は、東京出身の詩人・小説家・翻訳家です。東京女子大・学習院大卒業後、岩波書店の校正者を経て、英仏独文学の翻訳家として活躍しました。詩集『ことばの国のアリス』や小説『失われた庭』などの著作があり、児童書やファンタジーの名訳者としても名を馳せました。また、「ぞうのババール」シリーズを含む多数の絵本の訳を手がけました。その豊かな文学的背景と確かな翻訳技術によって、日本の児童文学界に大きな影響を残しています。

おすすめ対象年齢

この絵本は、3歳から6歳くらいの幼児に特に向いています。大型で見やすいイラストページに、感情や成長を描いた物語が展開され、視覚的にも文章的にも幼児が理解しやすい構成です。親子の読み聞かせにもぴったりです。

レビュー

読むたびに感じるのは、ババールの強さとやさしさ。深い悲しみの中でも立ち上がる姿が、子どもにも大人にも勇気を与えてくれます。フランスらしいシックな色使いと繊細な線は、時に切なく美しく、英訳版とは違った「原作に近い味わい」を感じます。やがわすみこさんの日本語も自然で読みやすく、ババールの心の微妙な変化が丁寧に伝わってきます。大型本ならではの迫力も魅力的で、親子の読み聞かせにもぴったり。失う経験を「成長のプロセス」として描く普遍的なテーマは、これからの子どもの感受性にも響くでしょう。