なまえのないねこ/竹下 文子

『なまえのないねこ』(文:竹下文子、絵:町田尚子)は、2019年に小峰書店から刊行された、心にじんわり染みる絵本です。それぞれ名前をもつ猫たちに囲まれて、名前をもたないひとりぼっちの猫が主人公。お寺の猫・じゅげむに「自分で好きな名前をつければいい」とアドバイスされ、自分にぴったりの名前を探しはじめます。町を歩いて名前を探し続けた先で、この猫が本当に欲しかったもの、それは名前ではなく… 読む人それぞれの心に寄り添う温かなメッセージが、美しい絵と共に広がっていきます。

略歴

竹下 文子

竹下文子(たけしたふみこ)さんは1957年福岡県生まれ、東京学芸大学卒業。大学在学中から童話の執筆を始め、1978年に「月売りの話」で日本童話会賞を受賞。以降、『星とトランペット』『黒ねこサンゴロウ』シリーズなどで路傍の石幼少年文学賞を受賞し、長年にわたって児童文学・絵本の世界で活躍されています。代表作には『せんろはつづく』『ひらけ!なんきんまめ』『なまえのないねこ』など、受賞歴も多数(絵本にっぽん賞、産経児童出版文化賞、講談社絵本賞など)。静岡県在住で、多くの子どもたちに親しまれている作家です。

町田 尚子(絵)

町田尚子(まちだなおこ)さんは1968年東京都生まれ、武蔵野美術大学短期大学部を卒業されたイラストレーター・絵本作家です。2007年に『小さな犬』で絵本デビュー。その後、『ネコヅメのよる』『さくらいろのりゅう』『いるのいないの』『おばけにょうぼう』など、温かみのある絵で人気を博してきました。猫が登場する絵本は特に評判が高く、『なまえのないねこ』でもその繊細かつ愛らしいタッチが光ります。複数の絵本賞を受賞しており、猫愛あふれる作品を中心に活躍中です

おすすめ対象年齢

『なまえのないねこ』の対象年齢は 5歳〜。読み聞かせでも文字をじっくり楽しむ子どもたちにぴったりです。優しい語り口としんみり響く内容なので、大人も共に深く味わえる絵本です

レビュー

この絵本、読み終えたあとに「名前」って何だろうとふと思い返す作品です。名前を持たない猫が、自分で名前を探す冒険を通じて、本当に求めていたのは名前そのものではなく、「自分を見てくれる誰か」だったという結末が本当に沁みる。町田尚子さんの絵は、雨に濡れた毛並みや低い視点の描写など細部まで丁寧で、思わずページの中にいるような気分になります。猫好きさんはもちろん、誰かとのつながりをテーマにした絵本を探している方にも、伝えたい一冊です。