『ボタンちゃん』は小川洋子さん作、岡田千晶さん絵による初の絵本で、2015年にPHP研究所から刊行されました。アンナちゃんのブラウスにとまっていたボタンちゃんは、ある日糸が切れて床へ転がり落ちてしまいます。ころころと進んでいく途中で、おもちゃ箱の裏に隠れて泣いているガラガラや、忘れられたよだれかけに出会い、優しく声をかけて慰めます。忘れ去られた「思い出たち」と触れ合うボタンちゃんの姿は切なくも温かく、読む人の心をじんわりと温めてくれます。小川洋子さんのやさしい物語と岡田千晶さんの柔らかな絵が響き合う、心に残る一冊です。
略歴
小川 洋子
小川洋子(おがわ ようこ、1962年生まれ・岡山県出身)さんは、早稲田大学第一文学部卒。1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞しデビューし、1991年には『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞するなど文壇での評価も高い。その後『博士の愛した数式』で読売文学賞・本屋大賞を受賞し話題となり、映画化もされた。2004年以降も泉鏡花文学賞や谷崎潤一郎賞など多数受賞。2015年には初の絵本作品『ボタンちゃん』(PHP研究所)を発表。ブラウスのボタンが転がり出た先で出会う忘れられたおもちゃたちとの交流を描くあたたかな物語は、児童読者のみならず大人にも人気を博している。
岡田 千晶(絵)
岡田千晶(おかだちあき)さんは大阪府出身、セツ・モードセミナー卒の絵本作家・イラストレーター。2010年にはボローニャ国際絵本原画展に入選した実力派です。代表作品には、『うさぎくんとはるちゃん』(岩崎書店)、『もうすぐもうすぐ』(教育画劇)、『ひだまり』(光村教育図書)、『しゃっくりくーちゃん』(白泉社)など多数あります。日常の何気ない仕草や表情を大切に描くスタイルで、優しいタッチに心がほっこりします。
おすすめ対象年齢
対象年齢は 4歳ごろから小学校低学年がおすすめです。物語はシンプルでやさしい言葉ですが、忘れられてしまったおもちゃや思い出に寄り添うテーマには少し切なさもあります。読み聞かせなら小さなお子さんにも楽しめますし、大きくなった子どもが一人で読むと、より深く「思い出の大切さ」を感じ取れるはずです。
レビュー
この絵本は、読んでいると子どもの頃に大事にしていたおもちゃや持ち物をふと思い出させてくれます。忘れられてしまったガラガラやよだれかけと出会う場面は少し切ないのですが、ボタンちゃんのやさしい言葉に心がじんとしました。岡田千晶さんの淡い色合いのイラストが物語の静かな温かさをさらに引き立てていて、ページをめくるたびに胸がじわっとあたたかくなる感じ。子どもに読み聞かせれば共感や安心感を与えられ、大人が読むと懐かしい気持ちを思い出せる、年齢を超えて響く作品だと思いました。