村山桂子さん作、堀内誠一さん絵の『たろうのひっこし』(1985年 福音館書店)は、自分の部屋がほしいと願う たろうと、その願いを工夫して叶えようとするお母さんとのやりとりから始まります。赤いじゅうたんを広げた場所が「自分の部屋」になるというアイデアはとてもユニーク。階段下や出窓の下、犬小屋の前と、たろうは引っ越しを繰り返しながらネコやイヌなど仲間たちを迎え入れます。引っ越すたびに広がっていく世界や友情が描かれ、子どもの想像力を刺激する温かい物語。堀内誠一さんのシンプルながら印象的な絵が物語を引き立てています。
略歴
村山 桂子
村山桂子(むらやまけいこ)さんは1930年、静岡県ご出身です。文化学院卒業後、お茶の水女子大学の幼稚園教員養成課程を修了し、1965年まで幼稚園の先生として勤務していました。その後、作家の道に進み、『おかえし』『たろうのおでかけ』『たろうのひっこし』などこどものともシリーズで多数の作品を発表。幼稚園での経験を活かした言葉と感性で、子どもたちの日常や心象を丁寧に描く絵本作家として親しまれています。
堀内 誠一(絵)
堀内誠一(1932年生まれ)は、東京府向島(現・墨田区)出身のグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー、絵本作家です。父・堀内治雄も図案家で、堀内は幼少期からデザインに親しみました。14歳で伊勢丹百貨店に入社し、ウィンドウディスプレイやレタリングの仕事を担当。その後、アド・センター株式会社を設立し、雑誌『an・an』『POPEYE』『BRUTUS』『Olive』のロゴデザインを手がけました。また、絵本作家としても活躍し、『ぐるんぱのようちえん』や『たろうのおでかけ』など、多くの作品を残しました。1974年から1981年までフランス・パリ郊外に移住し、現地の文化や芸術にも触れ、パリ在住日本人向けミニコミ誌の創刊に参画しました。1987年に永眠されました。
おすすめ対象年齢
『たろうのひっこし』の対象年齢は4歳ごろから小学校低学年くらいまでがおすすめです。自分の居場所を求める気持ちや、友だちと空間を共有する楽しさは、ちょうどこの時期の子どもたちにぴったり。引っ越しごとに展開が少しずつ変わるリズム感があるので、読み聞かせにも向いています。繰り返しのストーリーを楽しみたい年齢にちょうどよい一冊です。
レビュー
この絵本は「自分の部屋がほしい」という子どもなら誰もが一度は抱く気持ちを、ユーモラスに描いているところが魅力的だと思いました。赤いじゅうたん一枚で部屋ができるという発想がとても楽しく、読む子ども自身も「こんな部屋がいいな」と想像をふくらませそうです。また、次々と仲間が加わっていくことで、自分だけの空間が「みんなと一緒の楽しい場所」へと変わっていくのも心地よい展開です。最後までにぎやかに広がっていくたろうの世界が、子どもたちの自由な心を応援してくれるように感じました。