町田尚子さんの『さくらいろのりゅう』(2015年 アリス館)は、昔話のような雰囲気をまとった創作絵本です。ひとりぼっちのコイシに初めてできた友だちは、美しいりゅう。りゅうからもらった青いうろこと、コイシの大切な桜色の貝を交換するところから物語が動き出します。そのうろこに目をつけた欲深い人間たちの姿を通し、純粋な友情と対比される人間の欲望が浮き彫りに。町田さんの繊細で幻想的な絵が、深い余韻を残してくれる一冊です。
略歴
町田 尚子
町田尚子(まちだなおこ)さんは1968年東京都生まれ、武蔵野美術大学短期大学部を卒業されたイラストレーター・絵本作家です。2007年に『小さな犬』で絵本デビュー。その後、『ネコヅメのよる』『さくらいろのりゅう』『いるのいないの』『おばけにょうぼう』など、温かみのある絵で人気を博してきました。猫が登場する絵本は特に評判が高く、『なまえのないねこ』でもその繊細かつ愛らしいタッチが光ります。複数の絵本賞を受賞しており、猫愛あふれる作品を中心に活躍中です
おすすめ対象年齢
『さくらいろのりゅう』は、昔話風のストーリーと奥行きあるテーマを持つため、読み聞かせなら4歳頃から、小学生以上にもおすすめできる絵本です。友だちとの絆や人間の欲を考えさせられる内容なので、大人が読んでも心に響きます。親子で一緒に読み、感じたことを話し合える一冊として楽しめます。
レビュー
この絵本は、美しい友情と人間の欲望という相反するテーマを見事に描いていると感じました。りゅうとコイシのやりとりはあたたかく、特に貝とうろこの交換シーンは胸を打ちます。一方で、その宝物を狙う人間の姿は欲深さの象徴のようで、物語に緊張感を与えています。町田尚子さんの幻想的な色使いと細やかな描写は、ただ絵を眺めるだけでも物語の世界に引き込まれるほど。読み終えた後には、友情や大切なものを守る気持ちについて考えさせられました。