いのちの ふね/鈴木 まもる

鈴木まもるさんの『いのちのふね』(2011年 講談社)は、大切な人を失った悲しみに寄り添う、やさしい絵本です。物語では、旅立った人が「命の船」に乗って雲の上に行き、楽しく過ごしながら見守ってくれている姿が描かれています。そして不思議なことに、その人はどんどん元気になり、やがて赤ちゃんになって新しい旅に出ていくのです。「死」と「再生」という普遍的なテーマを、シンプルで温かい言葉と優しいタッチの絵で表現しています。読む人の心に静かに届き、悲しみを希望へと変えてくれる一冊です。

略歴

鈴木 まもる

鈴木まもるさんは1952年東京生まれ。東京芸術大学工芸科を中退後、1980年に『ぼくの大きな木』で絵本作家としてデビュー。作品数は200冊以上にのぼります。1995年に「黒ねこサンゴロウ」シリーズで赤い鳥さし絵賞を、2006年に『ぼくの鳥の巣絵日記』で講談社出版文化賞絵本賞、2015年には『ニワシドリのひみつ』で産経児童出版文化賞JR賞など数々の受賞歴あり。伊豆半島に在住し、画家・絵本作家として活動する傍ら、鳥の巣研究家として収集・展覧会・講演なども行っています。

おすすめ対象年齢

『いのちのふね』は、子どもから大人まで幅広く読める絵本です。小学校中学年くらいから理解しやすい内容ですが、大切な人との別れや命のつながりを考えるきっかけになるため、大人にとっても深く響きます。家族で一緒に読むことで、死を恐れるだけでなく「命が巡り続いていく」という安心感を分かち合える作品です。

レビュー

この絵本を読んで感じたのは、「死」をただ悲しい終わりとしてではなく、命の循環の一部として描いていることの温かさです。大切な人を失ったときの寂しさは消えないけれど、「命の船」に乗って見守ってくれているというイメージが、残された人の心をそっと包んでくれます。さらに、新しい命へとつながっていく描写が、絶望の先に希望を見せてくれるようでした。子どもにとっては死を考える入口に、大人にとっては悲しみを癒やす手助けになる一冊だと思います。