乾栄里子さんが文を、西村敏雄さんが絵を手がけた『おばけのぺろぺろ』(2019年 フレーベル館)は、ちょっと不思議で楽しいおばけ絵本です。主人公は、歌をうたうと歌に出てきたものが本当に現れてしまうおばけの「ぺろぺろ」。夜の町や公園に出没し、人びとをびっくりさせてしまいます。でも不思議なことに、子どもたちだけはまったく動じません。むしろその奇妙な世界を楽しんでいるよう。ユーモラスな展開と独特のリズム感のある文、そして西村敏雄さんらしい愛嬌のあるイラストが重なって、読み聞かせにもぴったりの作品になっています。
略歴
乾 栄里子
乾栄里子(いぬいえりこ)さんは1964年東京都生まれで、東京造形大学デザイン科を卒業後、インド・バナスタリ大学でテキスタイルを学んだクリエイターです。『バルバルさん』で絵本作家デビュー。他にも、『ぽんこちゃん ポン!』『パックン バーガーくん』(以上、絵:西村敏雄)、『おわんわん』(絵:100%ORANGE)、『つられたらたべちゃうぞおばけ』など多彩な作品を手がけています。
西村 敏雄(絵)
西村敏雄(にしむらとしお,1964年愛知県生まれ)は、東京造形大学デザイン科卒。家具やテキスタイルのデザイン仕事を経て絵本作家に転身し、第1回日本童画大賞最優秀賞を受賞。代表作に『バルバルさん』『もりのおふろ』『どうぶつサーカスはじまるよ』など多数あり、キャッチーで温かみのある絵が特徴です。『いろいろおふろはいり隊!』でも、野菜キャラたちに豊かな表情とユーモアを与え、読者をぞの世界へ引き込みます。インタビューでは「人の顔や日常のちょっとした表情にヒントを得る」と語っており、親しみのある作風の背景がうかがえます。
おすすめ対象年齢
『おばけのぺろぺろ』は、3歳くらいから小学校低学年までの子どもにおすすめです。おばけが出てくるけれど、怖いというよりユーモラスで楽しい雰囲気なので、初めてのおばけ絵本にもぴったり。ひらがなが中心でリズムのよい文章なので、読み聞かせを楽しみたい未就学児から、自分で読んで楽しめる小学生まで幅広く親しめます。
レビュー
読んでみてまず印象的だったのは、「おばけ」と「歌」というユニークな組み合わせです。ぺろぺろの歌から次々とものが現れる様子はちょっとドキドキするけれど、絵のタッチがとてもやさしくて笑いを誘います。特に、大人は驚いて大騒ぎなのに、子どもたちだけが落ち着いて楽しんでいるという展開がおもしろいポイント。子どもの自由な発想やおばけを受け入れる柔軟さが感じられて、読んでいて心がほぐれました。怖がりな子でも安心して楽しめる、おばけ入門の一冊だと思います。