『ヴィンセントさんのしごと』は、乾 栄里子さん作、西村 敏雄さん絵による、2024年発行の福音館書店「こどものとも絵本」です。ヴィンセントさんは、毎朝・毎晩、きちんと時間を守る規則正しい生活を送りながら、“ヴィンセント事務所”に届く世界中の子どもたちからの手紙を読むのが仕事。ある日、南の島に住む子どもから「雪が見たい」という願いが寄せられます。ヴィンセントさんは地図を調べ、風向きや気象を考えて、庭に長いはしごを立て、大きな扇風機を背負って、とんでもない“雪づくり”作業に挑戦します。人気の絵本『バルバルさん』シリーズと同じコンビが送り出す、新しい“夢ある仕事物語”。
略歴
乾 栄里子
乾栄里子(いぬいえりこ)さんは1964年東京都生まれで、東京造形大学デザイン科を卒業後、インド・バナスタリ大学でテキスタイルを学んだクリエイターです。『バルバルさん』で絵本作家デビュー。他にも、『ぽんこちゃん ポン!』『パックン バーガーくん』(以上、絵:西村敏雄)、『おわんわん』(絵:100%ORANGE)、『つられたらたべちゃうぞおばけ』など多彩な作品を手がけています。
西村 敏雄(絵)
西村敏雄(にしむらとしお,1964年愛知県生まれ)は、東京造形大学デザイン科卒。家具やテキスタイルのデザイン仕事を経て絵本作家に転身し、第1回日本童画大賞最優秀賞を受賞。代表作に『バルバルさん』『もりのおふろ』『どうぶつサーカスはじまるよ』など多数あり、キャッチーで温かみのある絵が特徴です。『いろいろおふろはいり隊!』でも、野菜キャラたちに豊かな表情とユーモアを与え、読者をぞの世界へ引き込みます。インタビューでは「人の顔や日常のちょっとした表情にヒントを得る」と語っており、親しみのある作風の背景がうかがえます。
おすすめ対象年齢
おすすめ対象年齢は、読んであげるなら3才から、自分で読むなら小学校初級むきとされています。イラストやお話自体は幼児向けにもなじみやすく、ヴィンセントさんの“ちょっと不思議だけど優しい仕事ぶり”という世界観を、4〜6歳ごろの子どもにも楽しめると思います。
レビュー
この絵本、ヴィンセントさんというキャラクターがとにかく魅力的で、ふだんはきちんとして淡々と過ごしているのに、「子どもの願いを叶える」という夢ある仕事に真剣に向き合う姿が、とっても温かくてユーモラスです。雪を見たいという願いに対して、「科学的・物理的にどうすれば実現できるか」を調べて、風向きや地理を考えながら、扇風機を背負って長いはしごで庭に登るというアイデアは、ほんの少し現実をねじまげた“ファンタジーのような現実味”があって、大人でも思わず「なるほど!」と微笑んでしまう仕掛け。そして、それを決して大きな奇跡として扱うのではなく、ヴィンセントさんが淡々と、でも丁寧に“仕事として”こなしていくところに、この物語の優しさがしみじみと感じられます。絵のタッチも柔らかく、「ちょっとおしゃれで落ち着いたおじさん」が静かに働いている様子が、ページをめくるたびにじんわり伝わってきて、お話し終わったあとも、「もしヴィンセントさんが、ほかの手紙を読んだらどんな仕事をするだろう?」なんて想像をする余韻が残ります。子どもにも大人にも、「ちょっと変わった仕事」という視点で夢を感じさせてくれる一冊です。