『どうして なくの?』は、文:フラン・ピンタデーラ、絵:アナ・センデル、訳:星野由美さんで、2020年に偕成社から刊行された絵本です。原題は ¿Por qué lloramos?、2018年にスペインのAkiara Booksから出版されました。ある日、男の子マリオが「ぼくたち、どうしてなくの?」とお母さんにたずねます。すると、お母さんは「かなしいとき」「おこっているとき」「だきしめてほしいとき」「おとなになるため」など、涙の理由をやさしく語ってくれます。詩のような言葉と幻想的な絵が響き合い、読む人の心に深く残る作品です。「なくこと」の大切さを感じさせてくれます。
略歴
フラン・ピンタデーラ
フラン・ピンタデーラ(Fran Pintadera, 1982–)はスペイン・ラス・パルマス生まれの作家で、心理学者や語り手としても活躍しています。物語を通じて子どもや大人の感情に寄り添い、感情教育やストーリーテリングのワークショップも展開。シンプルで詩的な文体が特徴です。代表作には、『¿Por qué lloramos?(どうして なくの?)』のほか、『¡Eh, perro!』『Cartas en el bosque』などがあり、世界各国で翻訳出版されています。日常の中にある感情や人とのつながりをテーマにした作品で、幅広い世代に親しまれています。
アナ・センデル(絵)
アナ・センデル(Ana Sender, 1978–)はスペイン・バルセロナ生まれのイラストレーター。美術学校でイラストを学び、広告や雑誌の分野で経験を積んだ後、絵本作家として活動を始めました。幻想的で詩情あふれる作風が特徴で、豊かな色彩と夢のような世界観で読者を引き込みます。代表作には『El conejito de la luna』『The Cottingley Fairies』などがあり、国際的にも高い評価を受けています。『¿Por qué lloramos?(どうして なくの?)』では、涙や感情を抽象的かつ美しく表現し、物語の深みを際立たせています。
星野 由美(訳)
星野由美(ほしのゆみ)さんは東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、出版社勤務、ペルー大使館勤務を経て、南米での生活経験を活かしスペイン語圏の詩や絵本の翻訳に携わっています。代表的な訳書に『Nosotros(わたしたち)』(岩崎書店)、『まぼろしのおはなし』『なぞなぞえほん ぴぅ!』(ワールドライブラリー)、『たかくとびたて女の子』(汐文社)など多数あります。2025年には『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』(PHP研究所)で産経児童出版文化賞翻訳作品賞を受賞し、多文化やバリアフリーをテーマにした作品にも注目しています
おすすめ対象年齢
この絵本は3歳くらいから小学校低学年の子どもにおすすめですが、大人が読んでも胸に響く内容です。「泣くことは恥ずかしいことではなく、大切な感情の表れ」であることを伝えてくれるので、子どもへの読み聞かせにもぴったり。親子で「涙」について語り合うきっかけにもなる一冊です。
レビュー
『どうして なくの?』は、涙を「弱さ」ではなく「人間らしさ」として描いている点がとても心に残りました。お母さんの答えは一つではなく、さまざまな角度から「泣く理由」を語ることで、読む人自身の経験や思い出と自然に結びついていきます。特に「おとなになるためになくこともある」という言葉は、成長の痛みや通過点をやさしく受けとめてくれるようで印象的でした。アナ・センデルさんの幻想的な絵も詩的で、ページをめくるたびに心がゆるみます。子どもと一緒に読んでも、大人が一人でじっくり読んでも、安心と気づきをもらえる絵本だと思いました。


