くんちゃんのだいりょこう/ドロシー・マリノ

ドロシー・マリノさんが作・絵、石井 桃子さんが訳を手がけた絵本『くんちゃんのだいりょこう』は、原題 Buzzy Bear Goes South として出版されたとされ、イギリス(または英語圏)で発行された版が知られています。初版発行国はイギリス(または英語圏)とされ、初版発行年は 1966年 とされる版があります。日本語版は 1986年 に岩波書店から刊行されています。物語は、冬ごもり前に渡り鳥を見て刺激を受けたこぐまのくんちゃんが、「自分も南の国へ行きたい」と願うところから始まります。くんちゃんは、帰りの目印として丘の上の松の木を覚えることを約束し、鳥を追って丘を駆け上ります。しかし、途中で「お母さんにさようならのキスをしてこなかった」ことに気づき戻ったり、双眼鏡、釣り竿、水筒などを取りに家へ戻ったり、丘と家を何度も往復する繰り返しをします。最終的には、くんちゃんは本格的な旅へ出るのではなく、そのまま冬ごもりの準備をするという結末になります。

略歴

ドロシー・マリノ

ドロシー・マリノ(Dorothy Marino,1908 – 1993)さんは、アメリカの児童文学作家・イラストレーターです。彼女は、子どもたちの身近な体験や心の動きを、ユーモラスで温かい眼差しで描くことを得意とされていました。そして作品に登場する動物たちは、まるで人間の感情を持っているかのように生き生きと描かれ、特に子どもたちの共感を呼ぶことが大きな魅力です。代表作としては、『くんちゃんのはじめてのがっこう』の他にも、日本でも出版されている「こぐまのくんちゃん」シリーズなどがあります。子どもたちが共感できるような、日々の出来事をやさしく描き出す作風が魅力的ですね。

石井桃子(訳)

石井桃子(いしいももこ、1907 – 2008)さんは、日本の児童文学作家・翻訳家で、子どもたちに優れた海外文学を紹介することに尽力しました。東京大学文学部を卒業後、出版社で働きながら翻訳を始め、やがて児童文学の世界で活躍するようになります。彼女は翻訳の名手として知られ、アメリカやヨーロッパの名作を日本語に翻訳し、多くの子どもたちに親しまれる作品を生み出しました。特に『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズの翻訳で高い評価を得ています。また、児童書編集者としても活動し、日本初の絵本専門出版社「岩波書店の岩波こどもの本」シリーズの立ち上げに携わり、質の高い絵本の普及に貢献しました。晩年には、自らの創作活動にも力を入れ、『ノンちゃん雲に乗る』などの作品で知られています。彼女の翻訳は、原作の魅力を忠実に伝えるだけでなく、日本語の美しさを引き出し、親しみやすい表現を用いる点で評価されています。彼女の活動は、日本における児童文学の発展に大きく寄与し、現在も多くの読者に影響を与え続けています。彼女の業績は、日本と世界の子どもたちを繋ぐ架け橋として輝き続けています。

おすすめ対象年齢

この作品は、日常のちょっとした冒険と失敗、戻る行動を丁寧に描いているため、3〜6歳(幼児~未就学児) あたりが適齢と考えられます。言葉のリズムや絵のシンプルさ・親しみやすさから、小さい子でも親と一緒に読み進めやすい内容です。また、後戻りや忘れ物など、子どもの日常感覚とも重なりやすいので、幼児期には特に心に残る作品になるでしょう。

レビュー

『くんちゃんのだいりょこう』は、最初は大きな旅を夢見るくんちゃんのワクワク感がありつつも、少しずつ「行きたい」が「歩み寄る・戻る」へと展開していく構成が印象的です。くんちゃんの純粋さと、「忘れたことに気づいて戻る」姿に共感を覚えます。子どもには、「思いつきで勢いで出かけること」と「準備や振り返りの大切さ」が自然に伝わると思います。 また、読者は最初に「大旅行か?」と思うけれど、読み進めると「実は家と丘を何度も往復しているだけ」という、ちょっとユーモラスでかわいらしい視点の転換にクスッとさせられます。自然や旅をテーマにするマリノ作品の中に、こうした日常性とユーモアを組み込む力量を感じられる絵本です。