ルドウィッヒ・ベーメルマンス作・絵、江國香織さん訳の『マドレーヌのクリスマス』(2000年、BL出版)は、人気シリーズの中でも温かなクリスマスの雰囲気が広がる一冊です。原題は「Madeline’s Christmas」で、1956年にアメリカで雑誌掲載版が発行されました。物語は、つたの絡まる古い寄宿舎で暮らす12人の女の子たちが、クリスマスを迎える準備をしているところから始まります。ところが園の先生も他の生徒も風邪で寝込んでしまい大ピンチ! そこでマドレーヌはみんなのために大活躍します。鮮やかな色彩とリズミカルな文章が、クリスマスのわくわく感をより引き立てています。江國さんの透明感ある訳文が加わり、時を超えて読み継がれる魅力が感じられる作品です。
略歴
ルドウィッヒ・ベーメルマンス
ルドウィッヒ・ベーメルマンス(Ludwig Bemelmans,1898–1962)はオーストリア・チロルに生まれ、若くしてアメリカへ渡り作家・画家として活躍しました。移民としてさまざまな職を経験したのち、持ち前のユーモアと観察力を生かして執筆活動を始めます。彼の代表作は、1939年に誕生した「マドレーヌ」シリーズ。小さな寄宿舎の少女たちの姿を軽快な文体と鮮やかなイラストで描き、国際的に人気を集めました。『マドレーヌといぬ』はコルデコット賞を受賞するなど、高く評価されています。没後は孫のジョン・ベーメルマンス・マルシアーノがシリーズを継承し、その世界はさらに広がりました。また、ニューヨークのホテルに残る壁画など、大人向けの芸術作品もあり、多彩な才能を持つ作家として知られています。
江國 香織(訳)
江國香織(えくにかおり)さんは、1964年生まれの小説家・詩人です。お父様は児童文学作家の江國滋さんで、その影響もあり、ご自身も童話作家としてデビューされました。その後は小説家として大活躍され、特に女性の心理を繊細に描き出す作風で、多くの読者を魅了しています。代表作は、映画化もされた『東京タワー』や、直木三十五賞を受賞された『号泣する準備はできていた』など、多数あります。また、絵本の翻訳も精力的に行っておられ、『マドレーヌのクリスマス』をはじめとする「マドレーヌ」シリーズの翻訳家としても知られています。彼女の詩的で美しい言葉選びが、海外の名作に新たな命を吹き込んでいます。
おすすめ対象年齢
『マドレーヌのクリスマス』は、おおよそ 3歳〜6歳程度 を主な対象年齢とされているようです。マドレーヌシリーズの他作品同様、やさしい語り口と挿絵で読み聞かせに向き、大人も一緒に楽しめる要素があります。魔法じゅうたんや風邪→回復という展開のため、子どもの想像力を刺激するストーリーとしても適しています。
レビュー
この絵本を読むと、マドレーヌらしい「小さくても頼れる存在」が強く印象に残ります。クリスマスという特別な夜に、多くの仲間や先生が風邪で動けなくなるなか、たった一人で屋敷を支えようとする彼女の姿には強さと優しさが同居しています。魔術師として現れる絨毯商人の登場は、物語に幻想的な彩りを加え、現実と夢のあわいを絶妙に揺らします。少女たちを家族のもとへ飛ばす魔法じゅうたんの場面は、子どもの夢を刺激するロマンに満ちています。絵は、ベーメルマンスらしい繊細な線と抑制された色彩で、静かな冬のパリの空気を感じさせてくれます。江國香織さんの訳は、原文のリズムと温かさを損なわず、言葉がやわらかく心に届きます。シリーズの他作とはまた違った、クリスマスの魔法と友情と責任感をそっと伝えてくれる、冬にぴったりの一冊だと思います。


