『おひさまパン』は、アメリカの絵本作家エリサ・クレヴェンが手がけた Sun Bread(2001年、米国初版)を江國香織さんが日本語に訳した作品です。日本語版は2003年に金の星社から刊行されました。物語は、暗く寒い冬におひさまを待ちわびる動物たちの前で、犬のパン屋さんが「おひさまの味のパン」を焼くことを思いつく場面から始まります。金色にふくらむ生地をこねて焼き上げたパンは、みんなの心と体を温め、やがて本物のおひさまも顔を出します。希望とぬくもりを分かち合う喜びを描いた、色彩豊かな絵本です。
略歴
エリサ・クレヴェン
エリサ・クレヴェン(Elisa Kleven、1956年生まれ)は、アメリカ・ロサンゼルス出身の絵本作家・イラストレーターです。子どもの頃から空想の世界を描くのが好きで、成長後もその想像力を生かし多くの作品を生み出しました。これまで30冊以上の絵本を手がけ、その半数ほどは自ら物語も執筆しています。代表作には、『Sun Bread』(邦題『おひさまパン』)、『The Paper Princess』や『The Lion and the Little Red Bird』、『Ernst』などがあり、温かみのあるコラージュ風のイラストと詩的な語りで世界的に高く評価されています。色彩豊かで生命力を感じさせる作風は、子どもから大人まで多くの読者を魅了し続けています。
江國 香織(訳)
江國香織(えくにかおり)さんは、1964年生まれの小説家・詩人です。お父様は児童文学作家の江國滋さんで、その影響もあり、ご自身も童話作家としてデビューされました。その後は小説家として大活躍され、特に女性の心理を繊細に描き出す作風で、多くの読者を魅了しています。代表作は、映画化もされた『東京タワー』や、直木三十五賞を受賞された『号泣する準備はできていた』など、多数あります。また、絵本の翻訳も精力的に行っておられ、『マドレーヌのクリスマス』をはじめとする「マドレーヌ」シリーズの翻訳家としても知られています。彼女の詩的で美しい言葉選びが、海外の名作に新たな命を吹き込んでいます。
おすすめ対象年齢
『おひさまパン』の対象年齢は幼児から小学校低学年くらいまでが目安です。アメリカでは2歳から6歳を中心に親しまれています。繰り返しのリズムや温かい物語は小さなお子さんにぴったりで、読み聞かせでも楽しめます。また、美しいコラージュの絵は年齢が上がってからも発見が多く、親子で長く味わえる一冊です。
レビュー
『おひさまパン』は、寒く色を失った世界に温かさと光を取り戻す、小さなパン屋さんの思いが胸にしみる絵本です。最初の風景は灰色がかった冷気を帯びていて、動物たちの表情もどこか沈んでいます。しかし、パン屋さんが心を込めてパンをこねてゆく過程をめくるたびに、色と温かさが画面に滲み広がっていくその変化がとても美しく、ページをめくる手が止まりません。焼けたパンの湯気や質感まで感じられるような絵の繊細さにはうっとりしますし、江國香織さんの訳も詩のように滑らかで、物語の余韻を大切に残してくれます。「おひさまの味」という発想が詩的で、現実と象徴の間をゆらりと行き来する感覚を子どもも大人も味わえると思います。読後は心がじんわりと温かくなり、また誰かと分かち合いたくなる。まさに「手のひらのおひさま」を感じさせる、素晴らしい一冊でした。


