『わすれられないおくりもの』(原題 Badger’s Parting Gifts)は、イギリスのスーザン・バーレイが1984年に発表したデビュー作。森一番の年長者アナグマが亡くなり、残された仲間たちが“思い出”という形見に気づきながら立ち直っていく物語です。やわらかな水彩とユーモアが重いテーマを包み込み、読み終える頃には胸がじんわり温かくなる一冊。日本語版は小川仁央訳で1986年に評論社より刊行され、グリーフケアの定番として30年以上愛されています。
略歴
スーザン・バーレイ
スーザン・バーレイ(Susan Varley)は1961年英ブラックプール生まれ。マンチェスター・ポリテクニックでグラフィックデザインとイラストレーションを学び、卒業制作が編集者の目に留まりプロデビュー。初作『Badger’s Parting Gifts』が英国新人絵本賞「マザーグース賞」(1985年)を受賞し一躍注目を集めました。その後もアンダーソン・プレスを中心に動物を主人公にした絵本を発表し、繊細な線と温かい物語性で国際的に評価されています。現在はロンドン近郊に在住、執筆とイラスト制作を続けながら学校や図書館で読み聞かせワークショップも行っています。
小川仁央(訳)
小川 仁央(おがわひとみ)さんは、英米の絵本や物語を中心に活躍する翻訳家です。具体的な生年月日や出身地などの詳細な経歴は公開されていませんが、これまでに多くの絵本を日本語に翻訳し、読者に届けてきました。主な訳書には、スーザン・バーレイ作『わすれられないおくりもの』、サム・マクブラットニィ作『どんなにきみがすきだかあててごらん』、デイビッド・シャノン作『だめよ、デイビッド!』、ベンジー・デイヴィス作『おじいちゃんのゆめのしま』などがあります。これらの作品を通じて、子どもたちや大人に感動や喜びを提供し、絵本の魅力を広める役割を果たしています。
おすすめ対象年齢
出版社の目安は「小学校低学年向け」。とはいえ文字量が少なく絵で状況をしっかり伝えてくれるので、4〜5歳頃の読み聞かせからOK。人生初めての“お別れ”やペットロスを経験した子にも寄り添える内容で、大人のフォローを挟めば就学前でも十分理解できます。文章を味わいたい小学生、死生観を考えたい中学生以上、大人のセルフケア絵本としても幅広く活躍する懐の深さが魅力です。
レビュー
初めて読んだとき「悲しいのに優しい」感覚に驚きました。アナグマの不在を嘆く場面では胸がきゅっと締めつけられますが、仲間たちが“アナグマから教えてもらったこと”という形見を見つけるシーンで一気に光が差し込みます。失ったものをそのまま埋めるのではなく、思い出を糧に前へ進む──その姿勢は大人こそ学びたいもの。水彩のにじみが涙や記憶のあいまいさを表すようで、ページを閉じても絵の余韻が消えません。読み聞かせのあと家族や友達と「わたしたちの贈り物って何だろう?」と話したくなる、まさに“忘れられない”一冊です。