くろいの/田中 清代

『くろいの』(作:田中清代、2018年 偕成社)は、ひとりで帰る女の子が出会った“くろいの”との不思議なひとときを描いた絵本です。自分にしか見えない黒い生きものを見つけた女の子は、勇気を出して声をかけます。案内された先は、古びた家の中や屋根裏につながる幻想的な空間。光るキノコやコケに包まれ、ブランコで遊び、大きな生きものに守られて眠る――夢のような時間が広がります。おしゃべりはないけれど、確かな温もりと優しさが伝わる“くろいの”との出会いは、子どもの孤独や不安に寄り添ってくれる存在。静かな余韻が心に残る、温かく幻想的な一冊です。

略歴

田中 清代

田中清代(たなか きよ)さんは1972年神奈川県生まれ、多摩美術大学で油彩と版画を学びました。在学中から絵本制作をスタートし、1995年にボローニャ国際絵本原画展でユニセフ賞、翌年には入選するなど国際的にも注目。デビュー作は1997年の『みずたまのチワワ』(文:井上荒野/福音館書店)。その後も銅版画の温かいタッチを活かした、『おきにいり』、『おばけがこわいことこちゃん』、『トマトさん』など多彩な作品を発表。また、自作で描いた『ひみつのカレーライス』や、再話を担当した『小さいイーダちゃんの花』なども人気です。2018年出版の『くろいの』では、日本絵本賞大賞や小学館児童出版文化賞など数々の賞を受賞し、今なお評価され続ける絵本作家です。

おすすめ対象年齢

対象は 5歳から小学校低学年くらいがおすすめです。静かな雰囲気や幻想的な世界観は、小さな子どもにとって少し不思議でドキドキする体験になります。一方で、孤独や安心といった心の機微をやさしく描いているので、大きくなってから読むとより深い味わいを感じられる作品。親子で一緒に読むと、お互いの気持ちを自然に共有できそうです。

レビュー

『くろいの』は、読んでいてとても優しい気持ちになる絵本でした。言葉少なに展開していく物語だからこそ、子どもの心の揺れや、誰かにそっと寄り添ってもらえる安心感が強く響いてきます。特に、屋根裏で広がる幻想的な世界や、大きな生きものに包まれるシーンは、まるで夢の中に迷い込んだようで、絵の美しさもあいまって心に残りました。大人になってから読むと、子どものころの「ひとりの時間」の記憶がふっとよみがえるようで、懐かしさと温もりを同時に感じます。