くろうまブランキー/伊東 三郎

『くろうまブランキー』は、作:伊東三郎、絵:堀内誠一、福音館書店から 1967年 の「こどものとも絵本」シリーズで刊行された絵本です。この物語は、黒馬のブランキーが、主人の家をつくるために重い荷車を引き、小屋も与えられず外で寝る生活を送り、老いて力が衰えたある日、主人にひどく叩かれて道に倒れてしまうというシーンから始まります。その晩、サンタクロースが静かに現れ、ブランキーを慰め、やがてブランキーはサンタのそりを引く馬としておいしい豆や上等のまぐさ(馬の寝草など)をもらい、幸せな夜を迎えるという静かで心温まるクリスマスのお話です。堀内誠一さんの絵本作家としての第一作でもあり、その絵の静かな空気感や表情が印象的です。

略歴

伊東 三郎

伊東三郎(いとう さぶろう、1902年生 ‐ 1969年没)は、岡山県出身で、本名は宮崎巌。エスペランティストとしての活動、農民運動家としての関わりがあり、言語や社会に関する著作を多数残しています。大阪外国語学校を中退後、エスペラント語を学び、農民運動・出版編集の仕事にも従事しました。主な著書には、『エスペラントの父ザメンホフ』(岩波書新書)などがあります。また、『くろうまブランキー』は伊東三郎による再話(原作をもとに語り直したもの)として、日本で紹介されており、堀内誠一の絵とともに、優しく静かな物語の絵本として長く親しまれています。

堀内 誠一(絵)

堀内誠一(ほりうちせいいち,1932年 – 1987年)さんは、東京府向島(現・墨田区)出身のグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー、絵本作家です。父・堀内治雄も図案家で、堀内は幼少期からデザインに親しみました。14歳で伊勢丹百貨店に入社し、ウィンドウディスプレイやレタリングの仕事を担当。その後、アド・センター株式会社を設立し、雑誌『an・an』『POPEYE』『BRUTUS』『Olive』のロゴデザインを手がけました。また、絵本作家としても活躍し、『ぐるんぱのようちえん』や『たろうのおでかけ』など、多くの作品を残しました。1974年から1981年までフランス・パリ郊外に移住し、現地の文化や芸術にも触れ、パリ在住日本人向けミニコミ誌の創刊に参画しました。1987年に永眠されました。

おすすめ対象年齢

『くろうまブランキー』の対象年齢は、おおよそ 幼児~小学校低学年(4〜8歳くらい) が読み聞かせや自分での読みやすさとしてちょうどよいと思います。主人公ブランキーの切なさや主人の扱いなど、やや感情的な場面もあるため、物語の意味や登場人物の気持ちをある程度理解できる年齢がより作品に深く入り込めます。また、静かな語り口やイラストの抑えた表現は、小さい子どもに安心感を与えつつも、心に残る読書体験をもたらします。

レビュー

『くろうまブランキー』は、読むたびに胸がぎゅっとなるような温かくも切ないお話です。ブランキーがどれほど忠実に主人のために働いても、それに応えてもらえず、年を取ったあげく叩かれて倒れる場面は、動物に対する優しさや弱い立場のものへの思いやりを考えさせられます。そして、サンタクロースがひそかに現れて慰めるシーンは、希望と救いを静かに届けてくれるので、読者として“ああよかった”と心から安心します。堀内誠一さんの絵がまた、色数や画面構成を抑えた分、闇の中の星空や馬の表情、静かな夜の空気感がじんわり伝わってきて、物語に余韻をもたせてくれます。クリスマス絵本として、ただ“楽しい”だけでなく、“思いやり”や“優しさ”を静かに語る一冊で、親子でゆっくり読みたいと思います。