『でんせつの きょだいあんまんを はこべ』(作:サトシン/絵:よしなが こうたく、2011年 講談社)は、あり得ないような“巨大あんまんを運ぶアリたち”の冒険絵本です。ある日、空から真っ白な巨大あんまんが降ってきた。それはアリの世界で昔から語られる伝説のあんまん。女王アリの命令で、勇者アリヤマ・アリロウを中心としたアリたちが、「伝説の巨大あんまんを巣まで運べ」というとんでもミッションに挑みます。危険と重さと知恵と勇気が渦巻く“アリ世界のスペクタクル冒険”を、サトシンの大胆な発想と、よしながこうたくさんの迫力ある絵で描き出した力作です。「アリたちは、“あんまん”というロマンにすべてをかけた」と紹介されており、子どもも大人もワクワクする“アリ目線の巨大ミッション物語”になっています。
略歴
サトシン
サトシン(本名:佐藤伸/さとう しん)さんは1962年、新潟県生まれの絵本作家です。もともとは広告制作プロダクションに勤め、専業主夫を経て、フリーランスのコピーライターとして在宅で働きつつ、やがて絵本作家の道へ進みました。「お話の力の復権」を目指し、親子のコミュニケーション遊びとして「おてて絵本」を考案、ソング絵本の普及活動も精力的に行っています。代表作には、爆笑必至で子どもにも大人にも人気の『うんこ!』(絵:西村敏雄/文溪堂)、『わたしは あかねこ』(絵:西村敏雄/文溪堂)、そして『とこやにいったライオン』(絵:おくはらゆめ/教育画劇)や『でんせつの きょだいあんまんを はこべ』(絵:よしながこうたく/講談社)など、多彩なテーマとユーモアを交えた絵本を多数手がけています。「おてて絵本」のアイデアや全国での絵本ライブ活動など、絵本を読むだけでなく“場づくり”としての絵本文化を広げている点も、サトシンさんならではの魅力だと思います。
よしなが こうたく(絵)
よしなが こうたくさんは1979年福岡県生まれ、九州産業大学芸術学部デザイン科卒。18歳ごろからイラストレーター、作家として活動をはじめ、線を描かず“絵の具だけで描き上げる濃厚なタッチ”が特徴です。初めての絵本『給食番長』(好学社)が大ヒットし、シリーズ化。そのほか「ようかいガマとの」シリーズ、「ぼくだってウルトラマン」シリーズ、『おふろだいすき!ぷっぺ』、『でんせつの きょだいあんまんを はこべ』など、多彩な作風で知られています。絵本ライブペインティングや全国各地での読み聞かせ活動も精力的に行っており、絵本作家として“場づくり”と“ライブ感”を大切にしている作家さんです。
おすすめ対象年齢
この絵本は、おおむね幼児〜小学校低学年(3〜8歳くらい)向きです。単なる“食べものを運ぶ”という設定から、大冒険、危険、知恵比べ、そしてチームワークという要素が詰まっていて、子どもたちの“冒険心”や“探検心”を刺激します。絵も情報量が多く迫力があるので、読み聞かせでも自分でゆっくり読むにも楽しめる作品だと思います。
レビュー
まず、この設定そのものが「なんておかしくて壮大!」と思わず声が出ました。空から降ってきた“巨大あんまん”を、重さや距離、天候や地形を考えながらアリたちが運ぼうとする…というのが、ほんとに“アリ世界の大スペクタクル”で、読んでいてワクワクが止まりません。サトシンさんの大胆な発想と細かいユーモアがあいまって、“アリたちが本気で“あんまんを運ぶ”という前代未聞のミッション”が真面目に描かれているところが最高です。そして、よしながこうたくさんの絵がまた見事。アリたちの体のふしぎな構造や動き、巨大あんまんの重みや質感、ミッションに挑むアリたちの“顔つき”や“汗や泥や努力”の表情が、絵だけでも物語を語っているようで迫力満点。読み聞かせをすると、子どもたちの「えーっ!」「どうするの!?」という声が聞こえてきそうだし、親も一緒に「すごいミッションだね」と笑いながら引き込まれてしまう一冊です。ちょっとファンタジー、ちょっとSF、ちょっと昆虫もの、そして全体としては“食べものを巡る壮大冒険”という、いい意味でジャンルを飛び越えた絵本だと思います。


