くまのコールテンくん/ドン・フリーマン

『くまのコールテンくん』(原題 Corduroy)は、アメリカの作家ドン・フリーマンが1968年にViking Press社から刊行した絵本です。日本語版は松岡享子さんの翻訳で1975年に偕成社より出版されました。デパートのおもちゃ売場に並ぶくまのぬいぐるみ・コールテンくん。女の子リサに気に入られるものの、「つりひものボタンが取れている」と母親に却下されます。そこで夜中にボタンを探す冒険に出かけるコールテンくん。翌朝、リサが自分の貯金をはたいて迎えに来てくれるという心温まる物語です。「選ばれることの喜び」「友情や承認」という普遍的なテーマを優しく描いた名作で、日本でも長年読み継がれています。

略歴

ドン・フリーマン

ドン・フリーマン(Don Freeman, 1908-1978)は、アメリカ出身の画家・絵本作家・イラストレーター。ニューヨークで画家として活動したのち、1950年代以降、児童書や絵本の執筆・挿絵を多数手がけました。代表作といえばまず『Corduroy』(日本語版『くまのコールテンくん』)が長年にわたって親しまれており、全米教育協会「教師が選ぶ子ども向け本TOP100」にも選ばれています。続編として1978年に『コーちゃんのポケット』(A Pocket for Corduroy)も書かれ、絵本だけでなく、背景にニューヨークの街や人々への観察眼からくる静かな感情描写がある点が高く評価されています。

松岡 享子(訳)

松岡享子(まつおかきょうこ,1935-2022)さんは、日本の児童文学研究者、翻訳家、図書館司書です。神戸女学院大学を卒業後、ウェスタン・ミシガン大学で修士号を取得されました。帰国後は、福音館書店に勤務し、東京都立日比谷図書館で児童サービスにも携わられました。1974年には「東京子ども図書館」を設立し、児童書の普及に尽力されました。代表作に『とこちゃんはどこ』『おふろだいすき』、また、『しろいうさぎとくろいうさぎ』や「くまのパディントン」などの翻訳も手掛けられました。著作・翻訳は200冊以上にのぼり、文化功労者としても顕彰され、児童文学の発展に大きく貢献されました。

おすすめ対象年齢

この絵本は、幼児〜小学校低学年くらいを主な対象としつつ、「所有すること」「友情」「承認されたり選ばれること」「冒険心や勇気」などのテーマが含まれているため、家庭での読み聞かせから学校読み聞かせ、あるいは年上の子どもや大人がじっくり味わう定番読み物にも適しています。絵本としてのシンプルさと深みのバランスがちょうどいい作品です。

レビュー

『くまのコールテンくん』、やっぱり名作だなあ、と思いました。コールテンというくまのぬいぐるみが、「自分も誰かに大切にされたい」「自分の“ひと“が欲しい」と願うその姿が、ものすごくシンプルだけど、静かに胸に響きます。夜、誰もいなくなったデパートを探検してボタンを探すという“冒険”シーンも、子どもだけでなく大人にとっても「怖さと好奇心、そしてちょっとした勇気」が交錯する、いいスパイスになっていて、「ぬいぐるみがただのおもちゃ以上の存在」であるということを、自然に教えてくれます。そして、リサが翌朝惹かれてコールテンくんを迎えに来るシーンの“温かさ”――これは、ただの“ぬいぐるみを買う”という行動を越えて、「選ぶ」「承認する」「大切にする」という、人と人との関係性の象徴になっていて、とても感動的です。読み終えて、「ともだちって、きっと、きみのようなひとのことだね」という言葉が、しばらく胸の中でくすぶるように残りました。そんな“余韻”も、この絵本が長く読み継がれている理由のひとつだと思います。