『おとうさんのこわいはなし』は、かとうまふみさんが作・絵を担当し、2019年に岩崎書店から出版されました。お父さんは顔も声も不機嫌で“こわい”存在。そんなお父さんが得意なのは「こわい話」を語ること。「とってもこわい…けど、おもしろい!」というギャップのある父と娘の日常を、「こわい」をキーワードに描いた作品です。“おとうさんがちょっと怖いけど”、その“怖さ”が語られる“こわい話”を通じて、家族や父親との距離感、娘との関係性をユーモアとあたたかさで描いています。怖がらせるだけじゃない、怖さを題材にした優しい絵本です。
略歴
かとう まふみ
かとうまふみさんは1971年、福井県生まれ、北海道育ち。北海道教育大学を卒業後、ディスプレイデザインなどの仕事を経験し、絵本作家の養成講座「あとさき塾」をきっかけに、28歳で上京して絵本制作を本格化されました。2001年、『ぎょうざのひ』(偕成社)で絵本作家デビュー。代表作には、『えんぴつのおすもう』『ぜったいわけてあげないからね』(偕成社)、『のりののりこさん』(BL出版)、『ゴロリともりのレストラン』(岩崎書店)などがあり、日常の小さな出来事や偶発的な発想をユーモアとあたたかい視点で描く作風が特徴です。子ども向けの絵本だけでなく、ワークショップや影絵人形劇づくりにも取り組まれ、表現の幅が広い作家さんです。
おすすめ対象年齢
対象年齢として3、4才〜小学校中高学年〜中学生〜一般と、幅広く設定されています。ただし実際には、おとうさんの“怖い”という存在に対する子どもの感じ方や、怖い話とユーモアのギャップを楽しめる想像力や感情が働く、小学校低学年〜中学年あたりが特によく合うと思います。怖さと安心のバランスを取りながら読む親子読み聞かせにも向いています。
レビュー
この絵本、『怖いお父さん』という設定から入るのに、読んでいくうちに“怖さ”がただの怖さではなく、「語る人のキャラクター」や「語られる怖い話への“期待”と“裏切り”」「娘の反応」など、ユーモアと温かさがあるものだと気づいて、ちょっとクスッとするし、ほっとする一冊だと思いました。「怖い話を得意とする父親」が、子どもにとっては“ちょっと怖いけど、おもしろくて安心できる”存在に転じていく様子、それが“こわい”という感情を通して“信頼”や“親子の距離感”を描いているのがうまいな、と感じました。絵も、ちょっとコミカルで、お父さんの“怖さ”と“おもしろさ”をバランス良く描き出していて、怖すぎず子どもが親近感を持てるタッチです。読み聞かせで「わあ、本当に怖いの?」と聞く子どもの顔を見ながら、「怖い」と「おもしろい」のあいだで“安心”を確認するように読むのが楽しそう。親子で “ちょっと怖くて、ちょっと笑える話”を共有する時間として、とてもよい絵本だと思いました。