よあけ/ユリ・シュルヴィッツ

よあけ』(原題:Dawn)は、ユリ・シュルヴィッツによる1974年刊の美しい絵本。山と湖が静まり返る夜明け前から、淡い色のグラデーションで少しずつ明るくなる朝の瞬間を、水彩で丁寧に描いています。日本語版は瀬田貞二さんの訳で、1977年に福音館書店から発売されました。おじいさんと孫がボートで湖に浮かびながら迎える夜明けの光景は、タイトル通り“よあけ”そのもの。セリフも少なく映像的で、子どもはもちろん大人も“見て感じる”タイプの絵本として高く評価されています。

略歴

ユリ・シュルヴィッツ

ユリ・シュルヴィッツ(Uri Shulevitz, 1935–)は、ポーランド生まれ、アメリカ在住の絵本作家・イラストレーター。幼少期に第二次世界大戦によって一家でヨーロッパを転々とし、その後イスラエルやフランスを経て、1959年にニューヨークへ移住。アート・スチューデンツ・リーグで学び、1963年に絵本作家デビュー。1969年には『よあけ』(Dawn)でコールデコット賞を受賞。詩的で静けさのある世界観と、繊細で味わい深い絵が特徴で、長年にわたり多くの作品を発表しています。戦争の記憶や静寂の美しさを描いた『雪のでんしゃ』『よるのとしょかん』など、日本でも根強い人気があります。

せた ていじ(訳)

せたていじ(瀬田 貞二、1916年 – 1979年)は、東京市本郷区(現:東京都文京区)湯島に生まれました。東京帝国大学文学部国文科を卒業後、平凡社に入社し、『児童百科事典』全24巻の企画編集に携わり、1956年完成。その後、児童文学の翻訳や評論、創作に専念し、J・R・R・トールキンの『指輪物語』やC・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』など、多くの名作を日本に紹介しました。その他、日本の民話の再話もあり、『かさじぞう』『ふるやのもり』などはロングセラーで多くの人々に愛され続けています。また、自宅に「瀬田文庫」を開き、地域の子どもたちに読書の場を提供するなど、亡くなる直前まで児童文学の普及に尽力しました。

おすすめ対象年齢

4〜7歳がぴったりの絵本。文字が少なく、夜明けの色や音のグラデーションを絵でゆっくり楽しむ構成は、幼児〜小学校低学年に最適。「自然って素敵だな」「静けさって心地よいね」と感じられるので、寝る前や朝の時間に親子でじっくり味わってほしい一冊です。

レビュー

読んでいる間、まるで自分もボートで湖に浮かんでいる気分。夜の闇から少しずつ光が差し込む描写は、息をするように自然で、絵の前にじーっと立ち止まりたくなります。瀬田さんの訳も余韻を大切にしていて、「みどりになった」のフレーズが心にしみます。会話がないぶん、親子で「どんな音が聞こえるかな?」「風はどっちから吹いてるかな?」と対話が生まれやすいのが◎。派手な展開はないけれど、そのぶん“絵本の原体験”とも言える感動があります。静けさの中にある温もりが、読む人の心をそっと包み込む大人も子どもも癒される名作です。