『おとうさんのちず』(原題:How I Learned Geography)は、ユリ・シュルヴィッツの自伝的絵本で、アメリカで2008年に刊行され、2009年に日本語版としてさくまゆみこさん訳であすなろ書房から発売されました。戦争により家族とともに故郷を追われ、新しい国に移り住んだ少年。「お夕飯代わりにパンを買ってこよう」と父が買ってきたのは巨大な世界地図。がっかりしつつも、その地図を見て想像の旅に出るうちに、心が豊かになっていきます。色あせた現実に、世界へのワクワクを取り戻すストーリーが、ユリさんらしいリズム豊かな絵でやさしく包まれています。
略歴
ユリ・シュルヴィッツ
ユリ・シュルヴィッツ(Uri Shulevitz, 1935–)は、ポーランド生まれ、アメリカ在住の絵本作家・イラストレーター。幼少期に第二次世界大戦によって一家でヨーロッパを転々とし、その後イスラエルやフランスを経て、1959年にニューヨークへ移住。アート・スチューデンツ・リーグで学び、1963年に絵本作家デビュー。1969年には『よあけ』(Dawn)でコールデコット賞を受賞。詩的で静けさのある世界観と、繊細で味わい深い絵が特徴で、長年にわたり多くの作品を発表しています。戦争の記憶や静寂の美しさを描いた『雪のでんしゃ』『よるのとしょかん』など、日本でも根強い人気があります。
さくま ゆみこ(訳)
東京都出身、1947年生まれのさくまゆみこ(作間 由美子)さんは、もともと出版社で編集者として活躍後、イギリスへ留学し児童文学を学んだ経歴の持ち主。帰国後はフリーの編集者・翻訳家として、子どもの本を中心に、絵本からYA小説、研究書までなんと 250冊以上を翻訳されています。翻訳だけにとどまらず、『エンザロ村のかまど』など著書も手掛け、産経児童出版文化賞大賞を受賞。日本国際児童図書評議会(JBBY)の前会長を務め、「アフリカ子どもの本プロジェクト」代表として、アフリカ諸国への本の寄贈や文化交流活動も行っています。現在は大学の非常勤講師や後進の育成にも関わりつつ、世界中の子どもたちに本の魅力を届ける“子どもの本界の風雲児”的存在。語りかけるような自然な訳文が親子世代から厚く支持されており、翻訳絵本界のカリスマとして知られています。
おすすめ対象年齢
本書は小学校低〜中学年くらいにぴったり。文字は少なめながら、テーマはかなり深め。図鑑や地図が好きな子どもにぴったりですし、「想像の力ってすごい!」と自信にもつながりそう。読み聞かせの時間にも、自分でじっくり読む時間にも、「世界はこんなに広いんだ!」と伝えられる一冊です。
レビュー
読んでみると絵が雄弁でものすごく心地いい!戦争で家族を失い、毎日が不安だった少年は、地図と出会って、一気に心の扉が開くんですよね。「お父さん、天才!」って思いました。私は地図大好き人間なので、あの一枚で救われる気持ちが胸にすっと入ってきました。色使いも落ち着いていて、できれば夜ベッドサイドで親子でじっくり読みたい気分。頭の中で「空想旅行」するたびに、少し強く優しくなれそう。読後も地図を眺めたくなる、地球の隅々に思いをはせる余韻が最高です。