『いぬが かいたかったのね』は、サトシン作、細川貂々さん絵、集英社から2013年刊行の絵本です。「犬を飼いたいけど、父さんにムリって言われているボク。お散歩中にひろったワラにアブをくくりつけて歩いていると、あら不思議。次つぎと、出会う人と動物を交換することになる。もしかして、うまい具合に、犬が来るのでは?期待するボクだけど…」というストーリーで、サトシンさんが「わらしべ長者」の物語をユーモアたっぷりに再構成した作品。絵を担当したのは、『ツレがうつになりまして。』で知られる細川貂々さんで、なんと絵本初挑戦!とのこと。
略歴
サトシン
サトシン(本名:佐藤伸/さとう しん)さんは1962年、新潟県生まれの絵本作家です。もともとは広告制作プロダクションに勤め、専業主夫を経て、フリーランスのコピーライターとして在宅で働きつつ、やがて絵本作家の道へ進みました。「お話の力の復権」を目指し、親子のコミュニケーション遊びとして「おてて絵本」を考案、ソング絵本の普及活動も精力的に行っています。代表作には、爆笑必至で子どもにも大人にも人気の『うんこ!』(絵:西村敏雄/文溪堂)、『わたしは あかねこ』(絵:西村敏雄/文溪堂)、そして『とこやにいったライオン』(絵:おくはらゆめ/教育画劇)や『でんせつの きょだいあんまんを はこべ』(絵:よしながこうたく/講談社)など、多彩なテーマとユーモアを交えた絵本を多数手がけています。「おてて絵本」のアイデアや全国での絵本ライブ活動など、絵本を読むだけでなく“場づくり”としての絵本文化を広げている点も、サトシンさんならではの魅力だと思います。
細川 貂々(絵)
細川貂々さん(ほそかわ てんてん、1969年生まれ)は、埼玉県出身の漫画家・イラストレーター・エッセイスト。1996年に集英社『ぶ〜けDX』で漫画家デビュー。その後、夫のうつ病との闘病を描いたコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』シリーズが大きな反響を呼び、テレビドラマ化・映画化もされています。その他にも、『イグアナの嫁』シリーズや、『それでいい。』シリーズ(精神科医・水島広子氏との共著)など、多方面で幅広く活躍されています。
おすすめ対象年齢
この絵本は、小さな子ども(幼児から低学年くらいまで)でも読み聞かせできる一方、ストーリーの“交換もの”という奇想天外な展開やユーモアが、大人にもクスっと楽しめる内容です。なので、たぶん 3〜8歳くらいを主な対象、と考えてよさそうです。
レビュー
この絵本、サトシンさんらしいユニークなひねりが効いていて、最初に「犬が飼いたい」というごく普通の願いから始まるのに、ワラ→アブ→動物の交換の連鎖がどんどん予想外の展開になっていくのが楽しいです。「わらしべ長者」を元ネタにしているとはいえ、「めでたしめでたしで終わる予感」はどこへやら、子どもの“願い”や“欲しいもの”って、簡単には手に入らない、あるいは思い通りにならないという現実を、くすっと笑いながらもほんの少し考えさせられます。絵の細川貂々さんのタッチは、やさしくてちょっとシュールな雰囲気もあって、物語の“テンポよく次々と交換されていくもの”の変化を、静かに支えてくれている感じがします。最後の結末も、あっと驚くひねりがあって、「犬を飼いたかったのね…本当に?」という問いを、大人も子どもも一緒にくすぐられるような、楽しくてちょっと考えちゃう絵本だと思いました。


