『こすずめのぼうけん』(1977年 福音館書店)は、作:ルース・エインズワース、絵:堀内誠一さん、訳:石井桃子さんによる名作絵本です。初めて空を飛んだこすずめが、勢いあまって遠くまで飛んでいってしまい、さまざまな出来事に出会う物語。物語が進むにつれて緊迫感が高まり、最後に安心できる結末が用意されています。読み手の心をハラハラさせながらも、しっかりと温かさを残してくれる展開は、小さな子どもたちにとって忘れられない読書体験となります。シンプルな文章と堀内誠一さんの生き生きとした絵が組み合わさり、今なお愛され続けている一冊です。
略歴
ルース・エインズワース
ルース・エインズワース(Ruth Ainsworth, 1908–1984)は、イギリス出身の児童文学作家・脚本家です。幼少期から物語に親しみ、ケンブリッジ大学で教育を学んだ後、子ども向けの物語を数多く手がけました。特にラジオドラマや読み聞かせ用の作品を多く執筆し、BBCでも紹介されるなど広く人気を集めました。代表作には『こすずめのぼうけん』『かえるのエルタ』などがあり、動物や子どもを主人公にした物語が多いのが特徴です。優しい語り口と緊張感あるストーリー展開で、幼い読者を物語の世界に引き込む力を持ち、国際的にも翻訳され読み継がれてきました。
堀内 誠一(絵)
堀内誠一(ほりうちせいいち,1932年 – 1987年)さんは、東京府向島(現・墨田区)出身のグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナー、絵本作家です。父・堀内治雄も図案家で、堀内は幼少期からデザインに親しみました。14歳で伊勢丹百貨店に入社し、ウィンドウディスプレイやレタリングの仕事を担当。その後、アド・センター株式会社を設立し、雑誌『an・an』『POPEYE』『BRUTUS』『Olive』のロゴデザインを手がけました。また、絵本作家としても活躍し、『ぐるんぱのようちえん』や『たろうのおでかけ』など、多くの作品を残しました。1974年から1981年までフランス・パリ郊外に移住し、現地の文化や芸術にも触れ、パリ在住日本人向けミニコミ誌の創刊に参画しました。1987年に永眠されました。
石井桃子(訳)
石井桃子(いしいももこ、1907 – 2008)さんは、日本の児童文学作家・翻訳家で、子どもたちに優れた海外文学を紹介することに尽力しました。東京大学文学部を卒業後、出版社で働きながら翻訳を始め、やがて児童文学の世界で活躍するようになります。彼女は翻訳の名手として知られ、アメリカやヨーロッパの名作を日本語に翻訳し、多くの子どもたちに親しまれる作品を生み出しました。特に『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズの翻訳で高い評価を得ています。また、児童書編集者としても活動し、日本初の絵本専門出版社「岩波書店の岩波こどもの本」シリーズの立ち上げに携わり、質の高い絵本の普及に貢献しました。晩年には、自らの創作活動にも力を入れ、『ノンちゃん雲に乗る』などの作品で知られています。彼女の翻訳は、原作の魅力を忠実に伝えるだけでなく、日本語の美しさを引き出し、親しみやすい表現を用いる点で評価されています。彼女の活動は、日本における児童文学の発展に大きく寄与し、現在も多くの読者に影響を与え続けています。彼女の業績は、日本と世界の子どもたちを繋ぐ架け橋として輝き続けています。
おすすめ対象年齢
『こすずめのぼうけん』は、幼児から小学校低学年を対象としています。文章はやさしく短めですが、ストーリーにハラハラする緊張感があるため、4歳ごろから楽しめます。読み聞かせにも向いていて、子どもは小鳥の冒険を自分と重ね合わせながらドキドキできます。成長するにつれて自分で読む楽しさも味わえる絵本です。
レビュー
読みながら、こすずめの気持ちが手に取るように伝わってきて、自然と胸がドキドキしました。初めての冒険はワクワクと同時に怖さも伴うものですが、その気持ちが子どもにも大人にも共感できる形で描かれています。堀内誠一さんののびやかな絵は、こすずめの小さな体と広い世界の対比をうまく表現していて、物語の緊張感をさらに引き立てていました。最後に無事に帰る結末は安心感を与えてくれ、「やっぱり家はいいな」と思わせてくれます。親子で一緒に読むと、成長や挑戦の大切さを分かち合える素敵な作品だと感じました。


