てろんてろんちゃん/ジョイス・デュンバー

『てろんてろんちゃん』は、作:ジョイス・デュンバーさん、絵:スーザン・バーレイさん、訳:江國香織さんによるイギリス生まれの心温まる物語です。初版原題は『Lollopy』で、初版発行国はイギリス、発行年は1991年です。日本語版は1992年にほるぷ出版から刊行されました。主人公のてろんてろんちゃんは、女の子ソフィーに可愛がられすぎて、くたくたになったうさぎのぬいぐるみ。ソフィーと森へ出かけたある日、うっかり森に置き去りにされてしまいます。すると、それを見つけた野うさぎの家族が、てろんてろんちゃんを大切に可愛がるんです。物を大切にする気持ちや、優しい思いやりが、じんわりと伝わってきます。

略歴

ジョイス・デュンバー

ジョイス・デュンバー(Joyce Dunbar)さんは、1944年にイギリスのリンカンシャー州スコンソープで生まれました。ロンドンのゴールドスミス・カレッジで英文学を学んだ後、教師などを経て、35歳で児童書作家としてデビューしました。これまでに70冊以上の児童書を出版し、20カ国語以上に翻訳されています。特に、動物を擬人化したユーモラスで感情豊かな絵本を得意としています。代表作には、子どもが安心できると世界的に評価が高い『おやすみまえのちいさなおはなし』(Tell Me Something Happy Before I Go To Sleep)や、娘のポーリー・デュンバーさんと共作した『くつしたとあかちゃん』(Shoe Baby)、ねずみとモグラの愉快な日常を描いた『ねずみとモグラ』シリーズ(Mouse and Mole)などがあります。彼女の作品は、遊び心のある言葉と幅広い感情表現が特徴です。

スーザン・バーレイ(絵)

スーザン・バーレイ(Susan Varley)さんは、1961年にイギリスのブラックプールで生まれました。マンチェスター・ポリテクニックでグラフィックデザインとイラストレーションを学び、児童書の作家・イラストレーターとして活躍しています。彼女のデビュー作であり、世界的ベストセラーとなった『わすれられないおくりもの』(Badger’s Parting Gifts)は、高齢化と死別という難しいテーマを、森の動物たちを通して優しく描いた傑作です。この作品で1985年にマザー・グース賞を受賞し、イギリス児童書イラスト界の「最もエキサイティングな新人」として評価されました。『てろんてろんちゃん』の絵も、バーレイさんの温かく緻密な鉛筆と水彩のタッチが魅力で、登場する動物たちの表情がとても豊かです。現在はロンドン近郊に在住、執筆とイラスト制作を続けながら学校や図書館で読み聞かせワークショップも行っています。

江國 香織(訳)

江國香織(えくにかおり)さんは、1964年生まれの小説家・詩人です。お父様は児童文学作家の江國滋さんで、その影響もあり、ご自身も童話作家としてデビューされました。その後は小説家として大活躍され、特に女性の心理を繊細に描き出す作風で、多くの読者を魅了しています。代表作は、映画化もされた『東京タワー』や、直木三十五賞を受賞された『号泣する準備はできていた』など、多数あります。また、絵本の翻訳も精力的に行っておられ、『マドレーヌのクリスマス』をはじめとする「マドレーヌ」シリーズの翻訳家としても知られています。彼女の詩的で美しい言葉選びが、海外の名作に新たな命を吹き込んでいます。

おすすめ対象年齢

この絵本は、3歳頃の幼児さんから小学校低学年(3歳~6歳くらい)のお子さんにおすすめです。ソフィーがぬいぐるみを大切にする様子や、てろんてろんちゃんを優しく扱う野うさぎの家族の行動から、「思いやり」や「物を大切にする心」といった、やわらかな感情を育むのに適しています。文字数は多すぎないので、読み聞かせでじっくり楽しむのにぴったりです。また、繊細で美しい絵なので、年長さんや低学年のお子さんが自分で読み返すのも楽しいでしょう。

レビュー

子どもの頃、私も大好きなくたびれたぬいぐるみがありました。この『てろんてろんちゃん』は、そんな「テロンテロン」の魅力を最大限に伝えてくれる絵本だと思います!ソフィーに愛されすぎて、耳もとろけて、毛も抜けちゃったてろんてろんちゃん。その姿が、愛情の証としてとても愛おしいんです。森に置き去りにされてしまったてろんてろんちゃんを、野うさぎたちが自分たちの家族の一員として迎え入れるシーンは、何度読んでも胸が熱くなります。特に、スーザン・バーレイさんの絵は、森の風景や動物たちの毛並みの柔らかさが感じられるほど繊細で、てろんてろんちゃんのくたびれた表情にも温かい生命力が宿っています。江國香織さんの自然で優しい翻訳も相まって、「愛する気持ち」と「与えられた愛」の温もりが心に染み渡る、素晴らしい一冊です。