『ママはかいぞく』(原題:Ma maman est une pirate)は、フランスの作家カリーヌ・シュリュグが、自身の乳がん体験をもとに書いた感動の絵本。ぼくのママは最強の海賊。毎日カニ(=がん)との戦いでクタクタだけど、笑顔を忘れないママの姿を、ぼくはそっと見つめています。ぼくは宝島探しには行かないけれど、ママがどれだけすごいかを知っているんだ──。病気を“バトル”や“傷跡”でやさしく例えながら、子どもにも伝わる言葉で綴られるストーリーは、読む人の心をぎゅっとつかみます。日本語版はやまもとともこ訳で2020年に光文社より出版。明るく力強い絵と、静かな愛情が印象的な絵本です。
略歴
カリーヌ・シュリュグ
カリーヌ・シュリュグ(Karine Surugue)さんは、フランス北部・リール出身の作家で、もともとはビジネスの世界で働いていたという異色の経歴の持ち主。4人の子どものママでもあり、子どもたちとの関わりの中で、教育や絵本に目覚め、モンテッソーリ教育の教師としても活動しています。乳がんを経験したことをきっかけに、自分の病気を小さな息子にどう伝えようかと悩み、生まれたのが絵本『ママはかいぞく』。ママを“最強の海賊”にたとえたストーリーは、多くの親子の心を温かく包みました。絵本作家としての活動は少数精鋭ながら、深いテーマと優しいまなざしが光る作風が魅力です。
レミ・サイヤール(絵)
レミ・サイヤール(Rémi Saillard)さんは、フランス・ジュラ地方出身の人気イラストレーター。ストラスブール国立装飾美術学校で学んだあと、子ども向け雑誌や絵本のイラストを中心に活躍しています。明るくて動きのある絵柄が特徴で、パッと目を引く色使いと、ちょっとクスッと笑えるキャラクターが印象的。『ママはかいぞく』では、病気という重たいテーマを、ユーモアと温かさで包みこむビジュアルが高く評価されました。絵本のほかにも児童書やポスター、教材など幅広いジャンルで活躍しており、フランス国内外にファンが多い実力派アーティストです。
やまもとともこ(訳)
やまもとともこさんは、東京出身の翻訳家。大学卒業後、フランス語の勉強を活かして出版社で働いたあと、フリーランスの翻訳者に。2000年ごろから児童書や絵本を中心に翻訳の仕事をはじめ、『タラ・ダンカン』シリーズや『どうぶつピラミッド』など、子ども向けのユーモアあふれる作品や、ちょっぴり深いテーマの本もたくさん手がけてきました。絵本『ママはかいぞく』では、重いテーマをやさしく伝える文章に定評があり、多くの読者に感動を届けています。現在は翻訳の仕事をしつつ、後進の育成にも関わっているそうです。
おすすめ対象年齢
『ママはかいぞく』は、5歳くらいからおすすめの絵本です。ママを“海賊”にたとえて病気のことを描いているから、ちょっとむずかしいテーマも、子どもが自然と受けとめやすくなっています。楽しい冒険のように読みながら、「病気ってなに?」「ママは大丈夫?」っていう気持ちにも、そっと寄り添ってくれる一冊。親子で読みながら、やさしく話すきっかけにもぴったりです。
レビュー
ページをめくるたびに現れる荒波や巨大ガニが迫力満点で、まずは冒険絵本として単純に面白い! でも読み進めると、ママが毎晩クタクタで帰還する理由、カニと戦う意味がじわりと伝わり、一気に胸が熱くなる。闘病を“バトル”に置き換える発想がユーモラスで、子どもも大人も重くなりすぎずに受け止められるのが秀逸。最後、ママが「次の航海に備えて休むね」とベッドで微笑むシーンは、安心とエールが同居していて涙腺崩壊。贈り物にもしたい一冊です。