『ぼくを探しに』(原題 The Missing Piece)は、1976年にアメリカで出版された、シェル・シルヴァスタインによる名作絵本。パックマンのような円形の主人公が、自分にぴったり合う「かけら」を探す旅を描きます。1977年に倉橋由美子訳で講談社から日本語版が刊行されました。105ページのシンプルな構成ながら、「自分探し」「自己実現」「関係と個性」など深いテーマをやさしく問いかける一冊。子どもにも大人にも響く普遍性があり、長年愛され続けています。
略歴
シェル・シルヴァスタイン
シェル・シルヴァスタイン(Shel Silverstein)は1930年、アメリカ・シカゴ生まれの“なんでも屋”クリエイター。詩人であり絵本作家であり、さらにはソングライターや漫画家としても活躍していた超多才な人です。もともとは『プレイボーイ』誌で旅漫画を描いたり、軍の新聞に風刺イラストを寄稿していたりと大人向けの活動が中心。でも、1964年に絵本『おおきな木』を発表してからは、児童文学の世界でも大ヒット。ユーモアと哲学をミックスした独自の作風で『ぼくを探しに』『きみのいる場所』などが世界中で読み継がれています。ちなみに、ジョニー・キャッシュの名曲「A Boy Named Sue」の作詞も彼。1999年に亡くなったあとも、世界中の読者に笑いと気づきを届けてくれる存在です。
倉橋 由美子
倉橋由美子(くらはし・ゆみこ)さんは、1948年生まれの日本の作家・翻訳家。早稲田大学第二文学部卒業後、小説やエッセイ、児童作品の翻訳に活躍。代表的な翻訳にシェル・シルヴァスタイン作品『ぼくを探しに』(1977年)、続編『ビッグ・オーとの出会い 続・ぼくを探しに』(1982年)などがあり、自然体な訳文で原作の味を生かしたことで知られています。晩年は心不全で亡くなる直前まで活動を続けました。
おすすめ対象年齢
推奨は小学校中学年〜大人向けですが、シンプルな絵と短い文章なので、6〜8歳の読み聞かせにも向いています。ただしテーマは「自己発見」や「成長の葛藤」など哲学的で、人生経験を伴わないと深い理解は難しいかも。親子で一緒に「かけらって何か」を考えるきっかけになり、子どもの心にも大人の胸にもじんわり響く作品です 。
レビュー
最初は「主人公はただの丸?」と思ってしまうほどシンプルな絵。でも読み進めるうちに、かけら探しの旅が「誰もが持つ生きづらさ」や「自分にぴったり合うものを求める気持ち」に見えてくる。ぴったりはまると歓喜するけど、今度は自由がなくなる──そんなメリットとトレードオフの描写に共感しました。最後、自ら手放して旅を続ける姿に、読後感がすっと心に残ります。子どもには「自分らしさって?」、大人には「足りないものがあるままでもいいんだよ」とそっと励ましてくれる、大人の絵本です。