中川ひろたかさんの文、長新太さんの絵による『ないた』(2004年・金の星社)は、「泣く」ことに正面から向き合った心に響く絵本。ころんで、ぶつけて、しかられて、けんかして…と、毎日どこかで泣く“ぼく”の視点から始まり、「うれしくてないた」「おかあさんは…」と感情の幅が広がっていく構成。読み進めるうちに、“泣く”って悲しいだけじゃない、大切な感情表現のひとつだって気づかされる。長新太さんのカラフルだけどちょっぴり切ない絵が、「泣く」の奥深さをより味わい深くしてくれて、子どもにも大人にもグッとくる日本絵本賞受賞作品。
略歴
中川 ひろたか
中川ひろたかさんは1954年埼玉県生まれ。シンガーソングライター、絵本作家、保育士などさまざまな顔を持つクリエイター。1995年に『さつまのおいも』でデビュー。また『ないた』で日本絵本賞受賞。モー・ウィレムズ作品をはじめ、翻訳絵本も多く手がけ、独自のユーモアある語り口が魅力。さらに作曲された『世界中のこどもたちが』などの歌が、保育現場でも広く親しまれています。
長 新太(絵)
長 新太(ちょう しんた,1927年 – 2005年)さんは、日本の漫画家・絵本作家・エッセイスト。東京都大田区出身。戦後、映画館の看板屋を経て、1948年に東京日日新聞の漫画コンクールで入選し、漫画家としてデビュー。その後、絵本作家としても活動を広げ、『ごろごろにゃーん』、『ぼくのくれよん』、『タコのバス』などユーモアあふれる作品を発表し、子どもから大人まで広く愛されました。1959年に文藝春秋漫画賞を受賞し、1994年には紫綬褒章を受章。2005年には『ないた』で日本絵本賞を受賞。享年77歳。
おすすめ対象年齢
対象年齢は4歳頃から小学校低学年くらいがおすすめ。泣くことを恥ずかしいと思い始める年頃の子どもにぴったりで、自分の気持ちと向き合うきっかけになる絵本。言葉のリズムが心地よく、感情が入りやすいので、読み聞かせにも◎。大人が読んでも共感できる内容。
レビュー
「泣いた」だけでこんなにいろんな気持ちがあるんだって、改めてハッとさせられる絵本。中川ひろたかさんのシンプルでまっすぐな言葉が、子どもの気持ちそのままを代弁してくれていて、大人としても「わかるなぁ…」ってうなずいちゃう。長新太さんの絵もまた絶妙で、笑えるのにちょっと胸がキュンとするような味わいがあって、それがまた“泣く”というテーマにぴったり。読み終わったあと、子どもと一緒に「今日はなんで泣いたかな?」なんて話したくなる、心に残る一冊でした。