こねこのぴっち/ハンス・フィッシャー

文・絵:ハンス・フィッシャー、訳:石井桃子『こねこのぴっち』(原題:Pitschi)は、1987年に岩波書店から日本語版が発行された名作絵本です。舞台は、りぜっとおばあさんのにぎやかな動物たちのおうち。子猫のぴっちは、兄弟たちと同じ遊びには興味がなく、「自分は本当にネコなの?」と疑問をもちます。そこで、にわとりややぎ、あひるのマネをしてみるけど、どれもうまくいかず…ついには体調を崩してしまいます。でも、家族や仲間たちのやさしさに包まれ、元気を取り戻し、「やっぱりここが一番」と気づく、心あたたまるお話です。

略歴

ハンス・フィッシャー

ハンス・フィッシャー(Hans Fischer, 1909–1958)は、スイス・ベルン出身の画家・絵本作家。愛称は「フィス」。チューリッヒやジュネーヴで美術を学び、グラフィックデザイナーや舞台美術家としても活躍しました。繊細な線描とユーモラスな表現で知られ、動物や人間の暮らしを温かく描いた作品が高く評価されています。代表作『こねこのぴっち(原題:Pitschi)』は1948年に刊行され、今も世界中で愛されています。1955年には国際アンデルセン賞画家賞を受賞。1958年、49歳という若さで永眠されました。

石井 桃子(訳)

石井桃子(いしいももこ、1907 – 2008)さんは、日本の児童文学作家・翻訳家で、子どもたちに優れた海外文学を紹介することに尽力しました。東京大学文学部を卒業後、出版社で働きながら翻訳を始め、やがて児童文学の世界で活躍するようになります。彼女は翻訳の名手として知られ、アメリカやヨーロッパの名作を日本語に翻訳し、多くの子どもたちに親しまれる作品を生み出しました。特に『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズの翻訳で高い評価を得ています。また、児童書編集者としても活動し、日本初の絵本専門出版社「岩波書店の岩波こどもの本」シリーズの立ち上げに携わり、質の高い絵本の普及に貢献しました。晩年には、自らの創作活動にも力を入れ、『ノンちゃん雲に乗る』などの作品で知られています。彼女の翻訳は、原作の魅力を忠実に伝えるだけでなく、日本語の美しさを引き出し、親しみやすい表現を用いる点で評価されています。彼女の活動は、日本における児童文学の発展に大きく寄与し、現在も多くの読者に影響を与え続けています。彼女の業績は、日本と世界の子どもたちを繋ぐ架け橋として輝き続けています。

おすすめ対象年齢

『こねこのぴっち』の対象年齢は3歳〜7歳くらい。ストーリーはやさしく、絵本を読み慣れてきたお子さんにぴったりです。自分探しや仲間の大切さを描いていて、小さな子でも共感できる内容。読み聞かせにも、自分で読むにもおすすめです。

レビュー

ぴっちの「自分は何者なんだろう?」という探し方がけなげで愛おしく、読んでいて胸がぎゅっとなりました。動物たちを次々に真似する姿はユーモラスなのに、どこか切なくて、子どもだけじゃなく大人にも響くお話です。最終的に「やっぱり自分の居場所がいちばん」と気づくぴっちに、安心と温かさを感じました。ハンス・フィッシャーの線画と落ち着いた色彩も美しく、石井桃子さんのやさしい訳文が物語にぴったり。世代を超えて読み継がれる理由がわかる、素敵な1冊です。