『さくら子のたんじょう日』(作:宮川ひろ、絵:こみねゆら)は、2004年に童心社から刊行された、心にじんわり響く絵本です。主人公のさくら子は、お母さんから「山の桜の木からもらった名前」だと聞き、自分の誕生日に込められた思いを首をかしげながら考えていきます。お墓参りの静かな時間や、母娘のあたたかな会話が、透明感のあるこみねゆらさんの絵とともに丁寧に描かれています。静かな「気づき」の瞬間が折り重なり、読み終えたあとに深いやさしさが心に残る一冊です。
略歴
宮川 ひろ
宮川ひろさん(1923–2018)は、群馬県出身の児童文学作家。東京の教員養成所を卒業後、小学校教員として活躍し、1965年に絵本作家への一歩を踏み出しました。1969年に『るすばん先生』でデビューし、その後も『びわの実学校』など多数の作品を発表。『さくら子のたんじょう日』は、日本絵本賞を受賞した作品として知られ、日常の中にある小さな心の揺れや成長を丁寧に描く作風で多くの読者に愛されました。長きにわたる絵本作りのキャリアを通じ、多くの子どもたちに寄り添う文学を届け続けた作家さんです。
こみねゆら(絵)
こみねゆらさんは1956年、熊本県生まれの絵本作家・イラストレーター・人形作家です。東京芸術大学絵画科および大学院で油絵を専攻した後、1985年にはフランス政府の留学生として渡仏し、パリのポザールで学びました。1992年にフランスで絵本『Les deux Soeurs』でデビューし、1994年に帰国。その後、絵本制作とともに、人形作家としても創作活動を続けています。『さくら子のたんじょう日』(文・宮川ひろ、童心社)と『ともだちできたよ』(文・内田麟太郎、文研出版)では日本絵本賞を受賞。その他にも『しいちゃんふうちゃんほしのよる』『にんぎょうげきだん』など、夢ある作品を数多く手がけています。
おすすめ対象年齢
『さくら子のたんじょう日』は、家族や自分の存在に深く向き合う物語なので、小学校高学年から中学生以上におすすめです。12歳頃からの読者にとって、誕生日をきっかけに「生まれた意味」や「親とのつながり」を考えるきっかけになります。感受性の豊かな思春期の子どもたちや、大人が読み返しても心に響く、人生を見つめ直す一冊です。
レビュー
『さくら子のたんじょう日』は、単なる誕生日のお話ではなく、「生まれてきた意味」や「親とのつながり」を深く問いかけてくれる絵本だと感じました。対象年齢が12歳以上となっているのは、家族のかたちや命の背景について考え始める思春期の読者にぴったりだからだと思います。生みの親や育ての親の存在を意識することで、自分の存在の重みや周囲からの愛情をあらためて感じ取れるはずです。大人が読んでも胸に迫るものがあり、人生の節目で読み返したくなる一冊だと強く思いました。