
『ひげのサムエルのおはなし』(原題:The Tale of Samuel Whiskers: Or the Roly-Poly Pudding)は、ビアトリクス・ポターによって1908年にイギリスで発表された絵本です。日本語版は、いしいももこ氏の翻訳により2019年に出版されています。物語は、猫のタビタ・トウィチットとその子供たちが、ネズミのサムエル夫妻に巻き込まれる騒動を描いています。
略歴
ビアトリクス・ポター
ビアトリクス・ポター(Beatrix Potter,1866 – 1943)は、イギリスの絵本作家であり、自然科学者、環境保護活動家でもあります。裕福な家庭に生まれ、幼少期から自然や動植物に興味を持ちました。独学で絵を学び、観察力に優れた彼女は、細密な動植物のスケッチで注目されます。1902年、代表作『ピーターラビットのおはなし』を発表し、大ヒットとなりました。その後も動物を主人公とした絵本を次々と執筆し、児童文学の金字塔を築きました。また、晩年は湖水地方の環境保護に尽力し、多くの土地をナショナル・トラストに寄贈しました。彼女の作品は、今も世界中で愛されています。
石井桃子(訳)
石井桃子(いしいももこ、1907 – 2008)さんは、日本の児童文学作家・翻訳家で、子どもたちに優れた海外文学を紹介することに尽力しました。東京大学文学部を卒業後、出版社で働きながら翻訳を始め、やがて児童文学の世界で活躍するようになります。彼女は翻訳の名手として知られ、アメリカやヨーロッパの名作を日本語に翻訳し、多くの子どもたちに親しまれる作品を生み出しました。特に『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズの翻訳で高い評価を得ています。また、児童書編集者としても活動し、日本初の絵本専門出版社「岩波書店の岩波こどもの本」シリーズの立ち上げに携わり、質の高い絵本の普及に貢献しました。晩年には、自らの創作活動にも力を入れ、『ノンちゃん雲に乗る』などの作品で知られています。彼女の翻訳は、原作の魅力を忠実に伝えるだけでなく、日本語の美しさを引き出し、親しみやすい表現を用いる点で評価されています。彼女の活動は、日本における児童文学の発展に大きく寄与し、現在も多くの読者に影響を与え続けています。彼女の業績は、日本と世界の子どもたちを繋ぐ架け橋として輝き続けています。
おすすめ対象年齢
この絵本の対象年齢は、5~6歳以上とされています。物語の内容やイラストの細やかさから、幼児から小学校低学年まで幅広く楽しめる作品です。
レビュー
この絵本はビアトリクス・ポターの作品の中でも特にユーモラスでありながら、少しダークな要素を含んでいます。普通は猫がネズミを追う立場なのに、この物語では逆転しているのがユニークです。ネズミに食べられそうになった経験は、トムにとって想像を超える恐怖だったはず。「猫まき団子」にされかけたのはトラウマになりますね。これは子供たちにも共感しやすい要素で、幼少期の怖い経験が後々の行動に影響を与えることを示唆しています。しかし、トムは恐怖を抱えながらも平和に暮らしており、トラウマがあってもそれを受け入れながら生きていけることを物語っています。その点が、この絵本をただのユーモラスな話にとどまらず、奥深いものにしていると感じました。