うさぎのさとうくん/相野谷 由起

『うさぎのさとうくん』(作・絵:相野谷由起、小学館、2006年初版)は、「うさぎのかぶりものをした男の子・さとうくん」が主人公の、ほっこりしつつもちょっとシュールな日常を描いた絵本です。淡々とした日々の中で、小さな「楽しいこと」「うれしいこと」が、静かに心にじんわりと響いてきます。中間色を多用した優しいタッチのイラストと詩的な文章が、ページをめくるたびにあなたの心をそっと包んでくれる—まるでそっと抱きしめられているようなあたたかさを感じられる一冊です。読み終わったあとに「いい気持ち」が残る、そんな優しい時間を届けてくれます。

略歴

相野谷 由起

相野谷由起(あいのやゆき)さんは神奈川県出身、多摩美術大学絵画科日本画専攻を卒業後、イラストや絵本で活躍する絵本作家です。1987年に日本イラストレーション展・銀賞、同グラフィック展・審査員賞を受賞。1990年にはクレヨンハウス絵本大賞・最優秀賞を獲得。代表作の一つ『うさぎのさとうくん』(小学館)は、第12回日本絵本賞を受賞しました。その他にも『わたしは いま とても しあわせです』(ポプラ社)や『あかちゃんが うまれるまで』(童心社)など、やさしく豊かな表現で多くの絵本を手がけています。

おすすめ対象年齢

主に幼稚園~小学校低学年の、だいたい3歳から7歳くらいの子どもを対象にした絵本です。ちょっと哲学的ともいえる静かな余韻がありつつ、やさしいイラストと言葉のリズムが小さな子どもにも自然に届く構成です。親子で「しみじみいいね…」と共有できる時間を過ごせる、とても素朴で心温まる作品です。

レビュー

ページを開くとまず目に映るのは、控えめだけど柔らかな色あいの絵。まるで薄い霧が溶けたような優しさに包まれて、「これはただの絵本じゃない」とすぐに感じました。主人公のさとうくんは不思議と身近で、「うさぎのかぶりものした男の子」なんだけど、まるで本当にそうであるかのように自然に感じられるのも魅力。そして、淡々とした日常からふわりと救い上げられるような「ほんの少しの出来事」が、読んだあとにじわじわ心に響く…。私はこの絵本を読み終えた後も、しばらくほっこり余韻に浸ってしまいました。「静かだけど豊か」な時間を、子どもにも、大人にも優しくプレゼントしてくれる一冊です。