
『しにがみさん』は、江戸落語の演目「死神」を題材にした絵本で、作・絵を野村たかあき氏が手掛け、柳家小三治氏が監修しています。2004年に教育画劇から出版されました。物語は、貧しい若い父親が死神と出会い、医者として成功するも、欲に目がくらみ自らの寿命を縮めてしまうという展開です。死神が人間の寿命を蝋燭に例える場面や、呪文「アジャラカ・モクレン・キュウライス・テケレッツのパア」を唱えるシーンが印象的で、恐ろしくも滑稽な物語が描かれています。野村氏の木版画による挿絵が、江戸の情緒を豊かに表現しています。
略歴
野村 たかあき
野村たかあき氏は、1949年群馬県前橋市生まれの木彫家・絵本作家です。15歳の頃、江戸時代初期の僧・円空の仏像に感銘を受け、木彫を始めました。高校卒業後、印刷会社に勤務しながらデザインを学び、20歳で子どもの遊びをテーマにした木彫の個展を開催。1983年に木彫・木版画工房「でくの房」を開設し、同年『ばあちゃんのえんがわ』で第5回講談社絵本新人賞を受賞。1989年には『おじいちゃんのまち』で第13回絵本にっぽん賞を受賞しています。
柳家 小三治(監修)
十代目柳家小三治(やなぎや こさんじ)さんは、1939年、東京府東京市淀橋区柏木(現・東京都新宿区北新宿)に生まれました。 1959年、五代目柳家小さんに入門し、前座名「小たけ」として修行を開始。 1963年に二ツ目昇進し「さん治」と改名、1969年9月には真打昇進と同時に十代目「柳家小三治」を襲名しました。 その後、1979年に落語協会理事、2010年には同協会会長に就任し、2014年に顧問となりました。 同年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、2019年度には朝日賞を受賞するなど、多くの栄誉に輝きました。
おすすめ対象年齢
この絵本の対象年齢は、内容の理解度や落語特有のユーモアを考慮すると、小学校低学年から中学年、さらには大人まで幅広く楽しめる作品と言えます。特に、高学年や中学生には、物語の深いテーマや教訓をより深く理解できるでしょう。
レビュー
本作は、落語「死神」の持つ独特の世界観を見事に絵本として再現しています。野村たかあき氏の木版画は、江戸の町並みや登場人物の表情を細やかに描き出し、読者を物語の中に引き込みます。また、死神とのやり取りや呪文のリズム感が、読み聞かせにも最適で、子どもたちの興味を引きつけます。一方で、人間の欲や命の尊さといった深いテーマも内包しており、大人が読んでも考えさせられる内容となっています。落語の持つユーモアと教訓を、絵本という形で楽しめる貴重な作品です。