きつねのたなばたさま/正岡 慧子

『きつねのたなばたさま』(作:正岡慧子/絵:松永禎郎/2003年 世界文化社 発行)は、七夕を舞台に親子の絆と成長を描いた、心にしみる絵本です。こぎつねは、猟師に撃たれたお母さんがもう戻らないことを知らず、ただひたすら待ち続けています。ある日、人間の子が短冊に願いを書いて叶った様子を見て、自分も願いを込めようとしますが…字が書けません。それでも想いを届けたい一心で行動する姿に、切なさと温かさが重なります。静かな感動をくれる、七夕にぴったりの物語です。

略歴

正岡 慧子

正岡慧子(まさおか けいこ)さんは1941年広島県生まれ。広告代理店勤務や喫茶店経営を経て、1984年に絵本デビュー(『くろひげのサンタクロース』)。その後は絵本・童話作家として活躍し、『あなぐまのクリーニングやさん』『きつねのたなばたさま』『ぼくのしごとはゆうびんや』など多数の作品を発表。また、日本児童文芸家協会理事や東洋医学の薬膳普及にも携わり、全国各地で読み聞かせや読み語り運動を推進しています。

松永 禎郎(絵)

松永禎郎(まつなが さだろう)さんは、1936年東京生まれの画家・絵本作家です。多摩美術大学卒業後、グラフィックデザイナーとして活動を開始し、その後絵本の世界へ。柔らかくあたたかいタッチのイラストで、日本の自然や動物を生き生きと描きます。代表作に『へっこきよめさん』(福音館書店)、『ねずみのすもう』(童心社)などがあり、昔話や情緒を大切にした作品が多くの読者に親しまれています。情報は各出版社や絵本ナビに掲載されています。

おすすめ対象年齢

対象年齢は3歳〜小学校低学年くらいがおすすめ。やさしい文章で描かれていますが、お母さんの死や願いごとといった深いテーマが含まれているため、大人と一緒に読みながら心の動きに寄り添えるとより良いです。七夕の季節にぴったりの一冊。

レビュー

読んでいて胸がぎゅっとなる、でも心があたたかくなる絵本です。字が書けないこぎつねが、一生懸命気持ちを届けようとする姿に、子どもらしいまっすぐさと強さを感じました。願いをかけるという七夕の風習が、こんなふうに物語になると、行事への親しみも深まります。松永さんの絵がとにかく美しくて、森の静けさや夜空の星、こぎつねの表情ひとつひとつに心を奪われました。読み終わったあと、やさしい気持ちになれる絵本です。