『ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ』は、イギリスの作家クリス・ウォーメルが手がけた、見た目は怖いけれど心はとても優しいかいぶつのお話。原題は『The Big Ugly Monster and the Little Stone Rabbit』で、2004年にイギリスで出版され、日本では同年に徳間書店から吉上恭太さんの訳で登場しました。誰もが逃げ出すほどみにくいかいぶつは、長い孤独の中で石のうさぎを作り、大切な友達として話しかけながら生きていきます。クリス・ウォーメルの木版画風の繊細なイラストが、静かで切ない物語をやさしく包み込み、読後には温かな余韻が残ります。「ほんとうの優しさって何だろう」と考えたくなる、美しくて心に残る一冊です。
略歴
クリス・ウォーメル
クリス・ウォーメル(Chris Wormell)は1955年にイギリス・リンカンシャー州ゲーンズボロ生まれ。1982年に独学で木版画を始め、1991年に息子のために制作した『動物のアルファベット』でボローニャ国際児童図書展のグラフィック賞を受賞。以後、自作絵本や挿絵本で高く評価され、2004年には絵本『ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ』を制作。ナショナル・アート・ライブラリーズ・イラストレーション賞をはじめ、ケイト・グリーナウェイ賞のノミネート歴もある実力派。現在はロンドン在住で、質感豊かな木版画調の作品を数多く発表しています。
よしがみ きょうた(訳)
吉上恭太(よしがみきょうた)さんは、1957年東京都生まれの翻訳家、作家、ミュージシャンです。週刊誌や児童書の編集者を経て、児童書の翻訳や編集、ライター活動を行っています。主な訳書に『ちゃんとたべなさい』(小峰書店)、『ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ』、『かしこいさかなはかんがえた』『時間をまきもどせ!』(徳間書店)などがあります。また、音楽活動も積極的に行い、ファーストアルバム『On Shinobazu Book Street』をリリースし、セカンドアルバムの制作にも取り組んでいます。
おすすめ対象年齢
この絵本の対象年齢は 4~7歳 程度が中心で、特に読み聞かせで楽しめる年齢層。やや重厚なテーマと絵柄ですが、石うさぎとの静かな友情や「見た目ではわからない心の豊かさ」に触れることで、子どもに深い考えを促します。シンプルながら情緒的な表現が多く、年長の幼児〜小学校低学年に向いています。
レビュー
この絵本は、まずかいぶつの「みにくさ」にギョッとさせられますが、徐々にその内面の優しさが伝わってきて、読み終わる頃には深く心が震えました。石でつくったうさぎに語りかけるかいぶつの孤独さや、無言ながら寄り添う石うさぎの存在がとても切なく、温かい。クリス・ウォーメルの版画風の濃淡が効いたイラストは、絵自体が静かな語り部のようで、テキスト以上に情緒を伝えてくれます。吉上恭太さんの訳も、淡々とした語り口ながら、かいぶつの内面に寄り添うようで、日本語として優しい印象。単なる「怖い絵本」ではなく、読後にじんわりと残る静かな感動が魅力です。