『悲しみのゴリラ』(原題:The Boy and the Gorilla)は、アメリカで2020年に初版刊行されました。日本語版は2020年にクレヨンハウスから訳・落合恵子さんにより出版されています。主人公の男の子はママを亡くし、葬式の日にそっと現れたゴリラと対話を始めます。「ママはどこへいったの?」「いつまで悲しいの?」とこどもが問いかけると、ゴリラは一つひとつ優しく答えます。同じ悲しみに向き合うパパとの間には、なかなか分かち合えない溝がある。でもゴリラとの対話で、少しずつ心がほぐれ、男の子はパパと新しい日常へと歩み出します。美しい水彩画が感情を映し、静かで深い癒やしをもたらしてくれる一冊です
略歴
ジャッキー・アズーア・クレイマー
ジャッキー・アズーア・クレイマーは、ニューヨーク州ロングアイランド在住の作家で、元々は女優・歌手・スクールカウンセラーとして活躍していました。代表作に『The Green Umbrella』や『If You Want to Fall Asleep』などがあり、『悲しみのゴリラ』は子どもの悲しみや喪失を尊重しつつ語りかける優しい文体が特長。2021年にSCBWIのCrystal Kite Awardを受賞するなど高い評価を得ています。
シンディ・ダービー(絵)
シンディ・ダービーはサンフランシスコ在住のイラストレーターで、自作絵本『How to Walk an Ant』の作者でもあります。もともとは演劇学校で学び、世界中でパペットパフォーマーとして活動していた経験を持ちます。水彩や混合画材を用いた柔らかく感情を映すタッチが特徴で、『悲しみのゴリラ』では、灰色から少しずつ光が差し込むような色彩表現で、物語の静かな力強さを引き立てています。
いとう ひろみ(訳)
落合 恵子さんは、日本の著名なエッセイスト・司会者・翻訳家で、子どもの本の翻訳も数多く手がけています。テレビ番組の司会を長年務める一方、児童文学の紹介や朗読活動を通じて、多くの親子に読書の魅力を届けてきました。『悲しみのゴリラ』の訳も、繊細な感情に寄り添いながら、自然で丁寧な日本語へと紡ぎ出しています。やさしく、子どもの目線に立った訳語選びが読む者の心に響きます。
おすすめ対象年齢
この絵本の対象年齢は 5~8歳ころです。母親を亡くした感情や喪失感というテーマを扱っていますが、過度な描写はなく、対話形式と優しいタッチの絵で構成されているため、小学校低学年からも理解しやすく、家庭や学校での読み聞かせにも向いています。
レビュー
悲しみや喪失をテーマにしながらも、非常に優しく、読後に少し希望が残る絵本だなと感じました。ゴリラという象徴的な存在が、こどもの問いに真摯に向き合い、“どうして?”を詰問ではなく対話で受け止める姿勢がとても印象的。絵は淡くて静かな色合いから、最後に少しずつ温かい色に変わっていくように見え、読み手も自然に感情に寄り添えます。パパとの関係性も描かれることで、悲しみを一人で抱えるのではなく、誰かと分かち合うことの大切さが伝わってきます。本当に心に効く本で、子どもだけでなく大人もそっと泣けて、前に進む勇気をもらえる一冊です。