イギリスの絵本作家ジョン・バーニンガムによる「The Dog」が、日本で1976年、冨山房の「バーニンガムのちいさいえほん」シリーズから谷川俊太郎さんの訳で登場しました。ある男の子と預かった犬との一日が、淡々と描かれています。靴をくわえて走り出したり、穴を掘ったり、いたずらいっぱいの犬を、男の子がニコニコと見守る日常のドラマ。絵と言葉が呼吸し合うような軽やかさと温かさが、読んでいてじんわり心にしみてきます。大がかりな展開はないけれど、「ぼくんじゃないけどね」と語る子の素直な気持ちが優しく胸を打つ名作です。
略歴
ジョン・バーニンガム
ジョン・バーニンガム(John Burningham,1936‑2019)はイギリス出身の絵本作家・イラストレーター。ケイト・グリーナウェイ賞を2度受賞するなど、その独特の線と繊細な色使いで世界中にファン多数。代表作には『Mr Gumpy’s Outing』や『Granpa』などがあり、日常の中にある小さなドラマやユーモアを捉える視点が魅力です。1993年刊の『クリスマスのおくりもの』もそんな作風が光る一冊。絵本界の巨匠として、半世紀以上にわたり子どもにも大人にも愛され続けています。
谷川俊太郎(訳)
谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう, 1931年-2024年)さんは、東京生まれの詩人、翻訳家、絵本作家です。1952年に詩集『二十億光年の孤独』でデビューし、その独創的で感受性豊かな詩風が注目を集めました。以来、詩だけでなく、絵本や脚本、翻訳など多岐にわたる分野で多才な才能と日本文学への多大な貢献を物語っています。
絵本分野では、レオ・レオニの『スイミー』や『フレデリック』の翻訳で知られ、その簡潔で美しい日本語訳が作品に新たな命を吹き込みました。また、絵本『もこ もこもこ』や詩画集『ことばあそびうた』など、自身のオリジナル作品でも多くの読者に親しまれています。
受賞歴も多く、読売文学賞(1983年)、野間児童文芸賞(1988年)、朝日賞(1996年)など、国内外で高く評価されました。晩年には国際的な詩の賞も受賞し、日本文学の世界的な地位向上にも寄与しました。詩を通じて日常の深さを表現し続け、2024年に永眠されました。その作品と影響は、今も多くの人々に愛されています。
おすすめ対象年齢
『いぬ』は、1歳半〜3歳くらいの乳幼児向けにぴったり。字が少なめでリズムのある文体、そして絵の魅力で、まだ文字が読めない子でも楽しめます。預かった犬とのやり取りがほのぼのと描かれていて、親子でじっくり見たり話しかけたりしながら楽しめる一冊。一日の出来事がやさしい絵と語りで伝わるので、はじめての絵本体験にもおすすめです。
レビュー
この絵本は、ほんとうに“しぜん”な温かさが魅力。犬が靴をくわえたり、穴を掘ったり…ちょっとわちゃわちゃした行動なのに、男の子はにこにこと受け止める。それだけで「友だち」「いたずら」「思い出」の豊かさが伝わってきて、ページをめくる手が止まらない。谷川俊太郎さんの訳も口語調で自然だから、子どもがすんなり心に入っていく感じ。親が声に出して読んでいてもじんわり楽しく、穏やかな余韻が残ります。大冒険はないけど、それがこの本の良さ。日常のちょっとした「いっしょにいる時間」を丁寧に切り取った、静かだけど心動く珠玉の一冊です。わが子や預かりっ子に読みたい、そんな気持ちになる作品です。