もみの木のねがい/エステル・ブライヤー,ジャニィ・ニコル

『もみの木のねがい』は、エステル・ブライヤーさんとジャニィ・ニコルさんによるアンデルセン童話の再話で、おびかゆうこさんが訳、こみねゆらさんが絵を担当し、2016年に福音館書店から刊行されたクリスマス絵本です 。ちくちくした自分の葉っぱが嫌いなもみの木は、妖精の力で柔らかな葉っぱに変えてもらいますが、ヤギに食べられたり、人々に摘み取られたり…。そして気づいたのは、もみの木の本当の願いとは…?こみねゆらさんの繊細なタッチと おびかゆうこさんらしい優しい語り口が、クリスマスの静かな温かさを感じさせてくれる一冊です 。

略歴

エステル・ブライヤーさん(再話)

エステル・ブライヤー氏は英国在住の幼稚園教諭で、43年間教育現場に勤める傍ら、音楽と運動を融合させたオイリュトミー運動を推進・研究し、南アフリカでもその普及に貢献されました。1992年には人形劇場を設立し、人形劇の毎週公演にも取り組まれてきた実践者でもあります。娘のジャニィ・ニコルさんとの共作による再話作品として、『もみの木のねがい』が収録された『Christmas Stories Together (Advent and Christmas Stories)』は、共作として三作目にあたります。情緒豊かで暖かな語り口を通じて、教育と表現両面での活動を長年にわたり続けてきた方です。

ジャニィ・ニコルさん(再話)

ジャニィ・ニコル氏は、イギリスを拠点に活動する幼児教育者で、シュタイナー教育を基盤にした保育や創作活動を続けてきました。母であるエステル・ブライヤー氏とともに、人形劇や再話絵本の制作に携わり、物語を通して子どもたちの想像力と感受性を育むことを大切にしています。とりわけ『もみの木のねがい』を含むクリスマス物語の再話は、親子共作の温かさが感じられる作品として評価されています。教育現場での経験を活かしつつ、物語を語り伝えることで、子どもたちに四季や祝祭の意味を伝える取り組みにも積極的に取り組んでいます。

おびか ゆうこ(訳)

おびかゆうこさんは、国際基督教大学語学科を卒業後、出版社勤務、ドイツ留学を経て翻訳家に。『クリスティーナとおおきなはこ』や『かあさん ふくろう』などで知られるほか、『ぼく、おつきさまがほしいんだ』や『ロバのジョジョとおひめさま』、『嵐をしずめたネコの歌』など、こども絵本・児童書の翻訳に多数携わっています。

こみねゆら(絵)

こみねゆらさんは1956年、熊本県生まれの絵本作家・イラストレーター・人形作家です。東京芸術大学絵画科および大学院で油絵を専攻した後、1985年にはフランス政府の留学生として渡仏し、パリのポザールで学びました。1992年にフランスで絵本『Les deux Soeurs』でデビューし、1994年に帰国。その後、絵本制作とともに、人形作家としても創作活動を続けています。『さくら子のたんじょう日』(文・宮川ひろ、童心社)と『ともだちできたよ』(文・内田麟太郎、文研出版)では日本絵本賞を受賞。その他にも『しいちゃんふうちゃんほしのよる』『にんぎょうげきだん』など、夢ある作品を数多く手がけています。

おすすめ対象年齢

対象年齢は 4〜6歳ころとされています 。クリスマスのほんのりした雰囲気や「あるがままの自分を大切にする」というメッセージは、小さな子どもに穏やかに伝わります。静かな情景とやさしい語りは、読み聞かせにぴったりですし、大人も一緒に心温まる時間を過ごせる作品です。

レビュー

この絵本を読んでいると、もみの木が自分のちくちくした葉っぱを嫌だと思う姿に、思わず「わかる…」と共感してしまいました。妖精の魔法で変わるたびに起こる出来事はユーモラスで痛みも感じつつ、その先にある「自分に戻る」ことの価値に気づくラストに深く胸を打たれます。こみねゆらさんの描く絵は宝石のように繊細で、ページを開くたびにクリスマスの空気がそっと広がるよう。子どもにも大人にも、しんと静まる時間にそっと寄り添ってくれるような、美しく心に残る絵本だと感じます。