『とんでいった ふうせんは』の原題は The Remember Balloons。作:ジェシー・オリベロス、絵:ダナ・ウルエコッテ、訳:落合恵子さん。初版はアメリカで2018年にSimon & Schusterから刊行され、その後2019年に絵本塾出版から日本語版『とんでいった ふうせんは』が発売されました。主人公のぼくとおじいちゃんは“思い出のふうせん”をたくさん持っていて、語り合うことを大切にしてきました。でもある日、おじいちゃんのふうせんが風に乗って飛んでいってしまうと、おじいちゃんは気づきません。さらにぼくとの思い出のふうせんも…。これは著者が祖父のアルツハイマー病を経験して生まれた物語で、記憶を失う苦しさと、それでも残る希望をやさしく伝えます。子どもにも大人にもじんわり響く暖かな一冊です
略歴
ジェシー・オリベロス
ジェシー・オリベロス(Jessie Oliveros)はアメリカ・カンザス生まれ。ユタ州での大学生活を経て、心臓ケア専門の看護師として約6年間勤務したのち、物語の世界に魅せられて作家の道へ。現在はテキサス州在住で、夫と4人の子どもと暮らしながら執筆活動を続けています。デビュー作『とんでいった ふうせんは』は、祖父のアルツハイマー病をきっかけに、「記憶」をふうせんにたとえて描いた感動作。2019年にシュナイダー・ファミリー賞オナーを受賞し、多くの読者に支持されています。自身の経験と家族への想いが、温かい物語に結実しています。
ダナ・ウルエコッテ(絵)
ダナ・ウルエコッテ(Dana Wulfekotte)は、韓国生まれ、ニュージャージー育ち、現在はニューヨーク州クイーンズを拠点に活動するアニメーター兼絵本作家です。代表作『とんでいった ふうせんは』では柔らかく温かな画風で記憶と時間の儚さを表現し、読者の心に深く響きます。彼女のイラストは、混血の家族や日常の風景を丁寧に描きつつ、感情の機微や記憶の揺らぎをうつくしく表すことで知られています。
落合 恵子(訳)
落合 恵子さんは、日本の著名なエッセイスト・司会者・翻訳家で、子どもの本の翻訳も数多く手がけています。テレビ番組の司会を長年務める一方、児童文学の紹介や朗読活動を通じて、多くの親子に読書の魅力を届けてきました。『悲しみのゴリラ』の訳も、繊細な感情に寄り添いながら、自然で丁寧な日本語へと紡ぎ出しています。やさしく、子どもの目線に立った訳語選びが読む者の心に響きます。
おすすめ対象年齢
対象年齢は 5歳〜9歳 程度とされています。記憶や家族の話をテーマに、人とのつながりや感情を考える導入として最適で、小学校低学年にも理解しやすいシンプルな文章と豊かなイラストが特徴です。読み聞かせでも自分で読んでも、子どもが胸に感じる温かさと問いかけを得られる一冊です。
レビュー
読んでいると、ふうせんが一つずつ空に飛んでいくシーンがとても切なく心に残ります。おじいちゃんが記憶を忘れてしまうのをぼくが追いかけようとする姿に、家族の愛と葛藤が温かく表現されているなぁと感じました。ウルエコッテさんのイラストは、色づかいが優しくて柔らかく、おじいちゃんと少年の関係性が絵だけでもしっかり伝わります。落合恵子さんの訳も、子どもの気持ちに寄り添った言葉選びで自然にスッと耳に入ってきます。読むたびに「ああ、思い出って大切だな」と感じさせてくれ、時には涙がにじむけど、それ以上に希望や家族のつながりを感じられる作品です。子どもだけでなく大人にもそっと寄り添ってくれる、記憶と愛の絵本だと思います。