『はるまでまってごらん』は、ジョイス・デュンバーさん作、スーザン・バーレイさん絵、訳が角野栄子さんのタッグによる、春の訪れが待ち遠しくなるイギリスの絵本です。初版原題は『The Spring Rabbit』で、初版発行国はイギリス、発行年は1993年です。日本語版は1995年にほるぷ出版から刊行されました。主人公は、森に住むうさぎの子、スマッジ。彼は兄弟姉妹がいないので、お母さんに「春になったら生まれるよ」と聞かされて、その日を今か今かと待ち望んでいます。待ちきれないスマッジは、秋には葉っぱで、冬には雪で、自分の兄弟を作っては、風に飛ばされたり、溶けてしまったりと、切ない体験を繰り返します。でも、ついに温かい春が訪れて、待望の新しい兄妹と対面!その喜びと幸せに、読んでいる私たちまで心が満たされるんです。
略歴
ジョイス・デュンバー
ジョイス・デュンバー(Joyce Dunbar)さんは、1944年にイギリスのリンカンシャー州スコンソープで生まれました。ロンドンのゴールドスミス・カレッジで英文学を学んだ後、教師などを経て、35歳で児童書作家としてデビューしました。これまでに70冊以上の児童書を出版し、20カ国語以上に翻訳されています。特に、動物を擬人化したユーモラスで感情豊かな絵本を得意としています。代表作には、子どもが安心できると世界的に評価が高い『おやすみまえのちいさなおはなし』(Tell Me Something Happy Before I Go To Sleep)や、娘のポーリー・デュンバーさんと共作した『くつしたとあかちゃん』(Shoe Baby)、ねずみとモグラの愉快な日常を描いた『ねずみとモグラ』シリーズ(Mouse and Mole)などがあります。彼女の作品は、遊び心のある言葉と幅広い感情表現が特徴です。
スーザン・バーレイ(絵)
スーザン・バーレイ(Susan Varley)さんは、1961年にイギリスのブラックプールで生まれました。マンチェスター・ポリテクニックでグラフィックデザインとイラストレーションを学び、児童書の作家・イラストレーターとして活躍しています。彼女のデビュー作であり、世界的ベストセラーとなった『わすれられないおくりもの』(Badger’s Parting Gifts)は、高齢化と死別という難しいテーマを、森の動物たちを通して優しく描いた傑作です。この作品で1985年にマザー・グース賞を受賞し、イギリス児童書イラスト界の「最もエキサイティングな新人」として評価されました。『てろんてろんちゃん』の絵も、バーレイさんの温かく緻密な鉛筆と水彩のタッチが魅力で、登場する動物たちの表情がとても豊かです。現在はロンドン近郊に在住、執筆とイラスト制作を続けながら学校や図書館で読み聞かせワークショップも行っています。
角野 栄子(訳)
角野栄子(かどのえいこ)さんは、1935年に東京で生まれました。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て、24歳から2年間ブラジルに滞在。その経験をもとにしたノンフィクション『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で1970年に作家デビューされました。代表作は何といっても、アニメ映画化もされた『魔女の宅急便』シリーズ!そのほかにも、「アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ」シリーズや、『ズボン船長さんの話』など、ユーモラスで自由な発想にあふれた作品を数多く手がけています。2018年には、児童文学の「小さなノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞作家賞を日本人として3人目に受賞されました。彼女の描く世界は、いつも子どもたちの好奇心と想像力を刺激してくれます。
おすすめ対象年齢
この絵本は、3歳頃から小学校低学年のお子さんにおすすめです。物語のテーマが「新しい家族を迎えることへの期待と戸惑い」、そして「季節の移り変わり」なので、特にきょうだいが生まれるのを待っているお子さんには、気持ちに寄り添ってくれる一冊としてぴったりです。スマッジの切なくて愛らしい姿は、小さな子の共感を呼ぶでしょう。また、スーザン・バーレイさんの絵は動物たちの描写が細かく美しいので、小学校に入ってからも長く楽しめると思います!
レビュー
この絵本を読むと、子どもが何かを純粋に待ちわびる気持ちって、こんなにも切なくて、いじらしいんだな、と改めて感じます。スマッジが、待ちきれなくて葉っぱで兄妹を作っては風で飛ばされ、雪で姉妹を作っては溶けてしまうシーン。そのたびに「あぁ、壊れちゃった…」と肩を落とす姿が、ページいっぱいの優しい絵で描かれていて、思わず抱きしめてあげたくなります。季節の移り変わりと共に、彼の期待が膨らみ、しぼみ、また希望を持つという心情の流れが本当に見事です。そして、ついに春が来て、小さくてかわいい兄妹とご対面するシーン!これまでの寂しさが一気に吹き飛ぶような、喜びと幸福感に満ちています。角野栄子さんの温かい訳も、この物語の感動を深めてくれていますよね。生命の誕生と季節の巡りの尊さを感じさせてくれる、素晴らしい作品です!


