ママたちが言った/アリシア・D ・ウイリアムズ

『ママたちが言った』。原題は The Talk。作:アリシア・D.ウィリアムズ、絵:ブリアナ・ムコディリ・ウチェンドゥ、訳:落合恵子さん。初版はアメリカで、2022年に Atheneum/Caitlyn Dlouhy Books から刊行され、日本語版は 2023年にクレヨンハウスより発売されました。アフリカ系米国人の男の子ジェイが、ある年頃になると家族から教わる「してはいけないこと」を通じて、差別や偏見から身を守るためのリアルな状況を学んでいく物語。大好きな友達と遊ぶ日々が揺らぎ始める中、家族の愛と知恵で未来へ向かう姿が胸を打ちます。重いテーマながら、あたたかくセンシティブな語り口とやわらかな絵が調和し、読後にじわりと考えさせられる大切な一冊です。ジェイの視点から「大事な話」が丁寧に描かれています。

略歴

アリシア・D.ウィリアムズ

アリシア・D.ウィリアムズ(Alicia D. Williams、1970年生まれ)は、アメリカ・デトロイト出身の作家であり教育者です。小説『Genesis Begins Again』(2019年)でニューベリー・オナー賞とコレッタ・スコット・キング新人賞を受賞し、広く高く評価されました。以降、児童向け作品にも活動の幅を広げ、絵本『ママたちが言った』や『Jump at the Sun』など、社会的テーマを絡めた読み応えある作品を発表しています。語りの根底にあるのはアフリカ系アメリカ人の語り継がれるオーラル・トラディションと、子どもたちに向けた文化的承認の力。その視点から「ママたちが言った」は、苦しくも必要な会話を優しさと誠実さで描き、家族と子どもの対話を促す設計になっています。

ブリアナ・ムコディリ・ウチェンドゥ(絵)

ブリアナ・ムコディリ・ウチェンドゥ(Briana Mukodiri Uchendu)は、ナイジェリア系アメリカ人のイラストレーター兼ビジュアル・アーティストで、ヒューストン在住です。初期には『ママたちが言った』(アリシア・D・ウィリアムズ作)を担当し、コレッタ・スコット・キング/ジョン・ステプトー新人賞のIllustrator Award を受賞しました。テクスチャー豊かなデジタルアートで知られ、礼賛されるレビューでは「特徴ある風合い」「感情と希望を共に伝える力」を高評価されています。さらに『We Could Fly』や『Soul Step』などアフリカ系アメリカ人の文化や歴史をテーマにした絵本にも参加し、民族的記憶や家族の物語を視覚的に織り込むアーティストとして注目されています。

落合 恵子(訳)

落合 恵子さんは、日本の著名なエッセイスト・司会者・翻訳家で、子どもの本の翻訳も数多く手がけています。テレビ番組の司会を長年務める一方、児童文学の紹介や朗読活動を通じて、多くの親子に読書の魅力を届けてきました。『悲しみのゴリラ』の訳も、繊細な感情に寄り添いながら、自然で丁寧な日本語へと紡ぎ出しています。やさしく、子どもの目線に立った訳語選びが読む者の心に響きます。

おすすめ対象年齢

この絵本の想定対象年齢は 4〜8歳 程度です。家庭や学校での読み聞かせを想定した、温かくも現実的な内容が特徴で、幼児から小学校低学年の子どもでも理解しやすい語り口と挿絵になっています。「自分はただの子どもでいたい」と願うジェイの気持ちに寄り添いながら、大人が子どもと話すきっかけとしても使いやすい一冊です。

レビュー

読みながら「こういう話、大人でもつらいのに、子どもにどう伝えるんだろう」と思いました。ジェイの視点で語られるからこそ、子どもの日常の延長線上にある不安や戸惑いがリアルに感じられます。同時に、家族が愛を持って伝える「言葉」が胸に響きます。ウチェンドゥさんの絵は柔らかくあたたかいけど、場面の緊張感をしっかり支えていて、視線や表情の微妙な揺らぎが伝わってくる。落合恵さんの訳も自然でリズムよく、大人が声に出して読んであげると子どもにもすっと届くはず。ページをめくるたびに、家族や社会とどう向き合うか、どう準備するかを優しく問われるような体験。深く考えさせられるのに、それでも子どもと読める絵本というバランスが絶妙でした。