ジュディス・カーの絵本『おちゃのじかんにきたとら』は、原作名が The Tiger Who Came to Tea で、1968年に発行されました。この作品は、イギリスの絵本作家ジュディス・カーによって書かれたクラシックな絵本で、長年にわたり愛され続けています。
物語は、ある日、ソフィーと彼女のお母さんが家でお茶を楽しんでいると、不意に大きなトラが家を訪れるところから始まります。トラはお茶やお菓子を食べつくし、さらには家にあるすべての食べ物を平らげてしまいます。このユーモラスで少し奇想天外なお話は、子どもたちに大きな驚きと笑いを提供し、日常のひとときに不思議な出来事が加わる楽しさを伝えています。日本でも人気が高く、親子で楽しめる一冊として広く読まれています。
ジュディス・カーの略歴
ジュディス・カー(Judith Kerr, 1923年 – 2019年)は、ドイツ生まれでイギリスに移住した絵本作家であり、作家、イラストレーターです。彼女はドイツ・ベルリンでユダヤ人の家庭に生まれましたが、ナチス政権が台頭した1933年に家族とともにドイツを離れ、スイス、フランスを経てイギリスに亡命しました。彼女の父親は著名な劇作家であり、政治的な立場から迫害を避けるために家族で移住を余儀なくされたのです。
イギリスに移住後、ジュディスは美術を学び、後にイラストレーターや脚本家として働き始めました。
1968年に発表した絵本『おちゃのじかんにきたとら』(The Tiger Who Came to Tea) は、彼女の代表作となり、世代を超えて多くの子どもたちに愛されています。この本の成功をきっかけに、ジュディス・カーは他にも数多くの子ども向け絵本を手がけ、その中でも猫の「モグ」シリーズ (Mog the Forgetful Cat) は人気が高く、シリーズ化されるほどの成功を収めました。
彼女の作品は、温かみとユーモア、そして優しさがあふれており、日常の中の小さな出来事やファンタジー要素を通して子どもたちに生きる喜びや驚きを伝えています。そして現在でも多くの世界中のファンに愛されています。
おすすめ対象年齢
『おちゃのじかんにきたとら』の対象年齢は、一般的に3歳から7歳の子ども向けとされています。この年齢層に適している理由は、物語がシンプルで明確なストーリー展開を持ちながらも、日常生活に不思議な出来事が加わるユーモラスな要素があるからです。絵本の内容は視覚的にもわかりやすく、美しいイラストが子どもたちの興味を引き、親子で一緒に楽しむのにぴったりな作品となっています。
また、物語には親しみやすいキャラクターや情景が描かれており、トラが登場して家の食べ物をすべて食べてしまうというシンプルで楽しい展開が、小さな子どもたちにとって非常にわかりやすく、共感を得やすいです。加えて、トラという少し異質で特別な存在が家族の中に入り込むことで、子どもたちの想像力を刺激し、好奇心をかきたてる要素も含まれています。
この年齢層の子どもたちは、まだ文字を読むのが難しい場合も多いため、保護者が読み聞かせをすることで一層楽しめる内容となっています。トラの大胆な行動やユーモアに溢れたシーンが多いため、何度も読み返したくなる魅力があります。
レビュー
ジュディス・カーの『おちゃのじかんにきたとら』は、シンプルでありながら非常に魅力的な絵本です。何よりも印象的なのは、この物語が子どもたちの想像力を広げるきっかけになる点です。見知らぬトラが家庭の日常生活に突然入り込み、茶目っ気たっぷりに家の食べ物をすべて食べ尽くしてしまうという展開は、現実と空想が見事に融合したファンタジーのようです。
カーの描くトラのキャラクターは、決して怖さを感じさせるものではなく、むしろ無邪気で、少しおっちょこちょいな愛らしさが感じられます。彼の大胆さとユーモラスな行動は、読んでいる子どもたちに驚きと笑いをもたらし、トラが去った後も彼が本当に現れたのか、それともただの空想だったのかを考えさせられる余韻が残ります。
また、物語の設定や登場人物の描写が温かく、特にソフィーと彼女のお母さんの関係が穏やかで愛情に満ちているのが心に残ります。おかあさんの「もちろんいいですよ。どうぞお入りください」は本当に神対応です。お母さんが娘と一緒にトラとのお茶のひとときを楽しみ、トラが家の食べ物をすべて平らげても慌てず騒がずに対応する姿は、親としての寛容さやユーモアの重要さを示しているようにも感じられます。この親子のゆったりとした反応が、読者に安心感を与えると同時に、家庭の温かさを引き立てています。
そして、絵本全体のイラストも非常に印象的で、シンプルでありながら鮮やかで、細部まで丁寧に描かれた絵が物語をより一層魅力的にしています。特にトラのデザインにはユーモアと威厳が混じり合い、一目見ただけでそのキャラクターが持つ独自の魅力を感じさせてくれます。
総じて、『おちゃのじかんにきたとら』は、子どもたちにとって「もしもこんなことが起きたら…」という自由な空想を広げることのできる一冊であり、親子で一緒に楽しむことで家族の時間をより豊かなものにしてくれます。何度も読み返したくなる、まさに絵本のクラシックと呼べる作品です。