『ティッチ』(原題 Titch)は、英国のパット・ハッチンスによる1971年初版の絵本です。小さな男の子ティッチは、兄姉よりもいつも小さくて、ちょっとさみしそう。でも、小さな種を植えて成長を見守るうちに、自分なりの“すごさ”に気づいていく物語。日本語版は石井桃子さんが訳し、1975年に福音館書店から刊行されました。ほのぼのした家族の描写と、「小さくても大丈夫」という優しいメッセージが魅力で、長く読み継がれる定番作品です。
略歴
パット・ハッチンス
パット・ハッチンス(Pat Hutchins、1942–2017)は、イギリス・ヨークシャー出身の絵本作家兼イラストレーター。ダーリントン美術学校やリーズ美術専門大学で学び、卒業後はロンドンの広告代理店勤務を経て1968年に児童書界へ進出。デビュー作の『Rosie’s Walk(ロージーのおさんぽ)』が高評価を受け、代表作『風がふいたら』(1974)ではケイト・グリーナウェイ賞を受賞しました。その後『ティッチ』シリーズをはじめ、40冊以上の絵本を自作自画し、『Rosie and Jim』でテレビにも出演。英国児童文学界のアイコン的存在として活躍し、2017年にロンドンで永眠されました。
石井桃子(訳)
石井桃子(いしいももこ、1907 – 2008)さんは、日本の児童文学作家・翻訳家で、子どもたちに優れた海外文学を紹介することに尽力しました。東京大学文学部を卒業後、出版社で働きながら翻訳を始め、やがて児童文学の世界で活躍するようになります。彼女は翻訳の名手として知られ、アメリカやヨーロッパの名作を日本語に翻訳し、多くの子どもたちに親しまれる作品を生み出しました。特に『クマのプーさん』や「ピーターラビット」シリーズの翻訳で高い評価を得ています。また、児童書編集者としても活動し、日本初の絵本専門出版社「岩波書店の岩波こどもの本」シリーズの立ち上げに携わり、質の高い絵本の普及に貢献しました。晩年には、自らの創作活動にも力を入れ、『ノンちゃん雲に乗る』などの作品で知られています。彼女の翻訳は、原作の魅力を忠実に伝えるだけでなく、日本語の美しさを引き出し、親しみやすい表現を用いる点で評価されています。彼女の活動は、日本における児童文学の発展に大きく寄与し、現在も多くの読者に影響を与え続けています。彼女の業績は、日本と世界の子どもたちを繋ぐ架け橋として輝き続けています。
おすすめ対象年齢
『ティッチ』は、2〜4歳の子どもにぴったりな絵本です。身近な家族のお話で、兄姉と比べて「ぼくはちいさい」と感じるティッチに共感しやすく、はじめての「自分の存在ってなんだろう?」という問いにも自然と触れられます。色鮮やかな絵とシンプルな展開が、集中力がまだ短い年齢でも楽しめる構成。読み聞かせにもぴったりで、小さい子の自己肯定感を育むやさしい一冊です。
レビュー
読んでる間じゅう「ティッチ、がんばれ~!」って心の中でエール。兄ちゃん姉ちゃんより何でもミニサイズで、誰にもほめられないままコッソリ蒔いたタネがぐんぐん伸び、最後に身長をごぼう抜きする瞬間、めちゃスカッ!
ハイタッチも祝砲もないのに結果だけで周りをアッと言わせる展開が痛快だし、「比べなくても自分のペースでいけるじゃん」と幼児も大人も元気が出る。シンプルなのに超ポジティブ、何回でも読み返したくなる一冊。