田中清代さんの『トマトさん』(2006年 福音館書店)は、真っ赤に熟した大きなトマトが主人公のユニークなお話です。ある夏の日、トマトさんが地面に「どった」と落ちてしまい、近くにいたミニトマトたちは涼しげな小川へ「ころころぽっちゃん」と転がっていきます。でも大きなトマトさんは体が重たくて動けず、太陽に照らされるうちにますます熱くなってしまいます。そんなピンチの中で繰り広げられる出来事を、大胆で繊細な銅版画が迫力たっぷりに描き出します。夏の情景とトマトさんの表情に思わず引き込まれる一冊です。
略歴
田中 清代
田中清代(たなか きよ)さんは1972年神奈川県生まれ、多摩美術大学で油彩と版画を学びました。在学中から絵本制作をスタートし、1995年にボローニャ国際絵本原画展でユニセフ賞、翌年には入選するなど国際的にも注目。デビュー作は1997年の『みずたまのチワワ』(文:井上荒野/福音館書店)。その後も銅版画の温かいタッチを活かした、『おきにいり』、『おばけがこわいことこちゃん』、『トマトさん』など多彩な作品を発表。また、自作で描いた『ひみつのカレーライス』や、再話を担当した『小さいイーダちゃんの花』なども人気です。2018年出版の『くろいの』では、日本絵本賞大賞や小学館児童出版文化賞など数々の賞を受賞し、今なお評価され続ける絵本作家です。
おすすめ対象年齢
『トマトさん』は主に3歳から小学校低学年くらいの子どもにおすすめの絵本です。大きなトマトの存在感あふれる絵や、夏の暑さや水の心地よさといった感覚的な描写が幼児の心をつかみます。また、困っているトマトさんを小さな仲間たちが助ける場面は共感しやすく、人とのつながりや思いやりを自然に感じられる内容になっています。
レビュー
『トマトさん』を読んでまず印象的なのは、銅版画ならではの力強い絵です。トマトさんの「暑い、苦しい!」と伝わってくる表情は、まるで自分も真夏の太陽に照らされているかのようなリアルさがあります。それでいて、ミニトマトたちの元気いっぱいな動きや川遊びのシーンが対照的で、読んでいて爽快感も感じられました。最後にトマトさんが仲間に迎え入れられる姿はホッと心が温まります。夏の暑さや仲間の優しさを体いっぱいに味わえる、読み聞かせにもぴったりの絵本だと思いました。