だんまり こおろぎ/エリック・カール

エリック・カール作、くどうなおこ訳の絵本『だんまりこおろぎ』は、1990年に偕成社から刊行されました。原作は『The Very Quiet Cricket』で、1990年にアメリカで発行されています。物語は、生まれたばかりのこおろぎの坊やが、羽をこすっても音が出せず、さまざまな虫たちと出会いながら成長していく様子を描いています。色鮮やかな貼り絵と、最後に実際にこおろぎの音が鳴る仕掛けが特徴で、読者の感性を豊かに育む作品です。

略歴

エリック・カール

エリック・カール(Eric Carle、1929 – 2021年)は、アメリカを代表する絵本作家・イラストレーターです。彼はドイツで育ち、14歳の時にアメリカから家族とともに移住しました。戦時下の厳しい生活の中、彼の芸術の才能は養われ、デザインやアートへの興味が深まっていきました。その後、アメリカへ戻り、ニューヨークで学び、卒業後は広告業界でグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートしました。そんな中、彼のイラストを見たビル・マーチンの依頼で『くまさんくまさんなにみてるの?』の挿絵を手がけたことがきっかけで、絵本作家としての道が開けます。1969年には、代表作となる『はらぺこあおむし』を出版。この作品は世界中で翻訳され、子どもたちに親しまれる名作となりました。カラフルでコラージュ技法を用いた独特な作風が特徴で、作品には自然や成長をテーマにしたものが多く、子どもたちの好奇心や想像力を刺激するものが多いです。
その後も多くの絵本を手がけ、教育的で遊び心のある作品を発表し続けました。彼の作品は、視覚的な美しさだけでなく、インタラクティブな要素を取り入れ、子どもたちが実際に体験しながら学べる構成が多いことでも知られています。

くどうなおこ(訳)

工藤直子(くどう なおこ)さんは、1935年、台湾の嘉義県朴子市に生まれました。お茶の水女子大学文教育学部中国文学科を卒業後、博報堂に入社し、女性初のコピーライターとして活躍しました。その後、詩人・童話作家・翻訳家として活動を始め、平易な言葉で子ども向けの詩や物語を多く執筆しています。代表作には『てつがくのライオン』(1982年)、『こぶたはなこさんのおべんとう』(1983年)、『ともだちは海のにおい』(1984年)などがあり、これらの作品で日本児童文学者協会新人賞や産経児童出版文化賞などを受賞しています。その後も多くの絵本を手がけ、教育的で遊び心のある作品を発表し続けました。彼の作品は、視覚的な美しさだけでなく、インタラクティブな要素を取り入れ、子どもたちが実際に体験しながら学べる構成が多いことでも知られています。

おすすめ対象年齢

エリック・カールの『だんまり こおろぎ』は、一般的に3歳から6歳の子どもを対象としています。カラフルで親しみやすいイラストとシンプルなストーリーが特徴で、小さな子どもたちでも理解しやすく、興味を引く内容です。また、最後のページでこおろぎの鳴き声が実際に聞ける仕掛けがあるため、感覚的に楽しむことができる点も小さな子どもに人気の理由です。この本は、読み聞かせにも適しており、親子でコミュニケーションを楽しむ場面にもぴったりです。

レビュー

『だんまり こおろぎ』は、シンプルなストーリーながらも深い感動を与えてくれる絵本です。初めて「音を出す」ということに挑戦する小さなこおろぎの姿は、子どもたちの成長の過程と重なる部分があり、読みながら自然に応援したくなります。音を出そうと努力し、少しずつ成長していく様子は、自己成長や忍耐の大切さを伝えているように感じます。エリック・カールの鮮やかなコラージュイラストは、こおろぎをはじめとする虫たちの色彩や動きを豊かに表現していて、ページをめくるごとに子どもたちが夢中になること間違いありません。また、最後にこおろぎの鳴き声が実際に聞こえる仕掛けがあるので、親子で「本当に鳴いた!」という瞬間を共有できるのも素敵です。絵本が単なる「読むもの」ではなく、「体験するもの」に変わる瞬間を感じられるのは、絵本ならではの喜びですね。エリック・カールらしい温かみと驚きが詰まった作品で、親子で何度も読み返したくなる一冊だと思います。

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