ルドウィッヒ・ベーメルマンス作・絵、瀬田貞二さん訳の『げんきなマドレーヌ』は、1939年にアメリカで初版(Madeline)が刊行され、日本語版は1972年に福音館書店から登場しました。舞台はパリの寄宿舎。12人の女の子たちと先生が暮らす中で、ひときわ小さく、でも誰より勇気ある少女マドレーヌが物語の主人公です。ある夜、盲腸炎で大騒ぎし病院に運ばれるマドレーヌ。手術を終え、誇らしげにお腹の傷をみせる姿はなんとも生き生き。そんな彼女に影響され、ほかの女の子たちも「手術を受けたい!」と泣き出すユーモラスな場面も魅力です。軽快なリズムでつづられた文章と、シンプルながら印象的な挿絵が組み合わさり、時代を超えて愛される一冊です。
略歴
ルドウィッヒ・ベーメルマンス
ルドウィッヒ・ベーメルマンス(Ludwig Bemelmans,1898–1962)はオーストリア・チロルに生まれ、若くしてアメリカへ渡り作家・画家として活躍しました。移民としてさまざまな職を経験したのち、持ち前のユーモアと観察力を生かして執筆活動を始めます。彼の代表作は、1939年に誕生した「マドレーヌ」シリーズ。小さな寄宿舎の少女たちの姿を軽快な文体と鮮やかなイラストで描き、国際的に人気を集めました。『マドレーヌといぬ』はコルデコット賞を受賞するなど、高く評価されています。没後は孫のジョン・ベーメルマンス・マルシアーノがシリーズを継承し、その世界はさらに広がりました。また、ニューヨークのホテルに残る壁画など、大人向けの芸術作品もあり、多彩な才能を持つ作家として知られています。
せた ていじ(訳)
せたていじ(瀬田 貞二、1916年 – 1979年)は、東京市本郷区(現:東京都文京区)湯島に生まれました。東京帝国大学文学部国文科を卒業後、平凡社に入社し、『児童百科事典』全24巻の企画編集に携わり、1956年完成。その後、児童文学の翻訳や評論、創作に専念し、J・R・R・トールキンの『指輪物語』やC・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』など、多くの名作を日本に紹介しました。その他、日本の民話の再話もあり、『かさじぞう』『ふるやのもり』などはロングセラーで多くの人々に愛され続けています。また、自宅に「瀬田文庫」を開き、地域の子どもたちに読書の場を提供するなど、亡くなる直前まで児童文学の普及に尽力しました。
おすすめ対象年齢
絵本『げんきなマドレーヌ』は、一般には 3歳から6歳程度 の幼児〜低学年児童を主な対象とされています。シンプルな韻を踏む言葉と鮮やかな挿絵、軽快なリズム感が、幼い子どもでも読みやすく、また読み聞かせにも適した作品です。大人もパリの風景や雰囲気を楽しめる要素があり、親子で楽しむのにも向いています。
レビュー
『げんきなマドレーヌ』を読むたびに、マドレーヌのちいさな身体と大きな「勇気」と「おてんばさ加減」に胸が躍ります。盲腸炎で苦しみながらも、手術後に傷を誇らしげに見せるあたりには、子どものたくましさを感じます。登場する少女たちや先生とのやりとり、夜中の泣き声の場面などは、緊張感と愛らしさが入り混じって、読み手を引き込む力があります。ベーメルマンスの絵は、線が軽やかで、色使いもシンプルながら印象的。パリの風景や寄宿舎の空気感もさりげなく伝わってきます。翻訳の瀬田貞二さんによる日本語のリズムも自然で、言葉がスムーズに心に入ってきます。子どもにも大人にも、元気と温かさをくれる一冊だなと思います。


