佐野洋子さんの『おぼえていろよおおきな木』(1992年 講談社)は、失ってはじめて気づく「大切なものの存在」を描いた深いテーマの絵本です。おじさんは、じゃまに思っていた大きな木を切り倒し、最初はすっきりするはずでした。ところが、心にぽっかりとした寂しさが広がり、やがて木がどれほど自分を支えていたのかに気づきます。人と自然との関わりや、本当に大切なものは何かを問いかける物語で、厚生省中央児童福祉審議会推薦文化財や全国学校図書館協議会選定図書にも選ばれています。佐野洋子さん独自の力強くあたたかな絵と簡潔な文章が、読者の心に深い余韻を残す一冊です。
略歴
佐野 洋子
佐野 洋子さん(さの ようこ、1938年 – 2010年)は、日本の絵本作家、エッセイスト、翻訳家として知られています。中国・北京で生まれ、幼少期を北京や大連で過ごしました。戦後、家族とともに日本に引き揚げ、山梨県や静岡県で育ちました。武蔵野美術大学デザイン科を卒業後、白木屋デパートの宣伝部でデザイナーとして勤務しました。その後、ドイツのベルリン造形大学でリトグラフを学び、帰国後に絵本作家としての活動を開始しました。代表作『100万回生きたねこ』(1977年)は、哲学的な内容で大人からも高い評価を受けています。また、エッセイや『ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』の翻訳など海外絵本の翻訳も手がけ、多彩な才能を発揮しました。2003年には紫綬褒章を受章し、2004年にはエッセイ集『神も仏もありませぬ』で小林秀雄賞を受賞しています。
おすすめ対象年齢
『おぼえていろよおおきな木』は、小学校低学年から中学年あたりを対象とした絵本です。内容はシンプルですが、失うことの悲しみや気づきといったテーマは、少し大きな子どもだからこそ共感しやすいものです。読み聞かせとしては幼児にも楽しめますが、大人にとっても考えさせられる題材なので、親子で一緒に読むのもおすすめです。
レビュー
この絵本を読んで一番心に残ったのは「なくしてからでは遅い」という強いメッセージです。日常の中では当たり前のようにある存在に気づかず、いざ失ってからその大きさを実感する―誰もが経験する感情を、おじさんと木の関係で鮮やかに描いています。絵のタッチも力強く、木の存在感がページを通して伝わってきました。子どもが読めば自然や身近な存在を大事に思うきっかけになり、大人が読めば人生を振り返るきっかけにもなります。読むたびに心に響き方が変わる、奥深い一冊だと感じました。


